第449話 高度500メートル。下方に魔法少女の群れっ!

「全身で『移行領域(トランジショナル・ゾーン)』を展開するんだったら、『絶縁塗装』は必要なかったんじゃない。電撃だってあっちの空間へすり抜けるはずよね」


 アスカがそう呟くと、すぐさまアルが反応してきた。モニタのむこうから迷惑そうな顔をむけてくる。

「おいおい、アスカ、すまねぇがな、バカ言ってくれるなよ。それを全身に展開しているんじゃ、武器が使えねぇんだろ。どうやってイオージャを倒すんだい。結局は『絶縁塗装』なしには、あいつとは戦えねぇんだ」

「わ、わかったわよ」

「それにそいつは前回、緊急対応したヤツとはモノがちがうんだぜ。『アルティメット・トポロジカル絶縁体』って言ってな、ナノミクロンで塗布できるから、絶縁耐性も耐久力も前回の数倍はある。よほど無茶しなきゃ破れねぇし感電はしねぇ」

「でも、なんか微妙に動きづらいのよね。これぇ」


 その時ミライが叫んだ。


「高度500メートル。下方に魔法少女の群れっ!。パイロット各位、『移行領域(トランジショナル・ゾーン)』を全身へ展開!」

 アスカはすぐさま全身くまなくベールが覆われるイメージを頭のなかで思い描いた。とたんにセラ・ヴィーナスの頭部から青いパルスが全身を駆け巡った。

 ミサトが今度はしっかりとした口調で、指示を伝えてきた。

「魔法少女の群れの通過時間は2・25秒。こののち3秒後に、地上に待機した中国国防軍が魔法少女に一斉射撃をおこなう。真下からはレーザー砲、真横からはテラ粒子砲ほかの攻撃だ。ふたりともレーザー砲に撃ち抜かれたりしないように注意を」

 

 当初の予定通りのプランA——。

 アスカとユウキのデミリアンが魔法少女の群れに降下し、できるだけ魔法少女を集結させる。魔法少女からの集中攻撃を浴びるが、全身に展開した『移行領域(トランジショナル・ゾーン)』で無効化し、このエリアを突破。

 そのタイミングで地上配置された通常兵器で、魔法少女を攻撃する。イオージャの正面に降りたった二体はバラバラにイオージャを惹きつける。

 そこにヤマトのマンゲツが真上から高速降下し、イオージャのからだを貫く。


 だが、最後の詰めになるヤマトのマンゲツがいない——。


 すぐ真下にステッキを手にして待ち構える魔法少女たちの群れがせまってきた。

 ざっとみただけで百体は下らない。

 今回もあのチープな少女のお面をかぶっていて、表情は見えなかったが、おそらく面の下では舌なめずりでもしているに違いない。

 ここでのあたしたちの役割は、魔法少女を惹きつける囮——。

 

 魔法少女たちの群れのなかに、セラ・ヴィーナスが飛び込んでいく。

 ステッキを振り回そうとしている少女たちの姿が目に入る。その先から電撃やバラバラにする『分解光線』がはなたれようとしている。


 完全に『移行領域(トランジショナル・ゾーン)』のむこうにいるから、安全だとわかっていても、怖くないと言えば嘘になる。

 アスカはコンソールパネルの『移行領域被覆(TZC=トランジショナル・ゾーン・コーティング)』に目をやった。

 100%——。

 

 大丈夫、心配ない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る