第447話 2466年 アイとのはじめてのデート8
そこまで言ったとき、ふいに空から大粒の雨が降ってきた。
あまりにも突然だったし、ものすごい勢いだったので、どこかに避難する間もなく、あっという間に服や髪の毛がぐしょぐしょになっていく。
あたりを歩いていた人たちも、この
ぼくはアイの手を引いて、雨が避けられそうな場所をさがして駆け出した。
「『天気予告』だと、今日はまる一日『晴れ』になっていたはずだったのに」
雨の音に負けないように大声をあげた。
すると中佐がうしろのほうから、ぼくらに追随しながら大声で返事をした。
「天気をコントロールできるようになってもね。局地的な雨とか雷みたいな、イレギュラーな天気には対応できない場合があるのよ」
「なにも今日じゃなくてもいいのに」
そう言いながら、ぼくはアイのほうを振り向いた。
手をひかれて走っているアイは、顔から
ふいにアイがぼくの手をぐいと引っぱった。ぼくはおもわず立ち止まる。
「アイ、どうしたの?。このままじゃ濡れるよ」
「タケル。もうあたしたちずぶ濡れよ」
「わかってる。でもさっきのアトラクションの偽物の海とはちがう。簡単には乾かないよ」
「うん、もう服の中までぐっしょり。本物の雨なんだもの」
さらに雨足が強くなった。すこし痛いくらいの雨粒が、これでもかとぼくらのからだにうちつける。
「すごくない?。『天気予告』にないことが起きたの!」
ぼくは自分の顎をつたう滴を拭いながら、アイがなぜこんなにも笑っていられるのかわからなかった。
「だって、あたし、一生覚えてられるのよ。タケルとのはじめてのデートの日、大雨に降られて、ふたりともずぶ濡れになったって!」
「あ、いや、そうだけど……」
あまりにも目を輝かせて言うので、ぼくはアイの説得をあきらめた。
ぼくは中佐の姿を探しだすと、そちらにむけて肩をすくめてみせた。草薙中佐はそれだけで、なんとなく察したようで、雨のなか腕を組んだままそこから動こうとしなかった。
目をこらすと、ぼくらに追随していた兵士たちも、雨に濡れるがまま待機しているのがみえた。ぼくはたちまち申し訳ない気持ちになった。
だけど、アイは、雨にうたれながら、センター街の真ん中で、あはは、と笑い声をあげて楽しげにしていた。
アイがぼくの手をぎゅっと握りしめた。ぼくはアイの手をぎゅっと握り返した。
アイは空を見あげると、顔を雨粒に打たれるがまま、晴々とした笑顔を浮かべて言った。
「今日は、サイテーに最高な日!」
それがぼくとアイの最初で最後のデートになった——。
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