第414話 アメリカ陸軍対魔法少女5

 スージーは悪夢をみた——。


 起きていても意識がはっきりしていてて、アドレナリンやドーパミンがでまくっている状態でも、悪夢は見ることができるのだ。


 最初にロギンズの背後の兵の何人かが、なにかに襲いかかられたのがみえた。

 反射的に引金に指がかかったのか、散発的に銃弾が放たれた音が響く。

 たちこめる硝煙。

 そのむこうに、そのなにかがまだ複数うごめいている。残った兵士たちがなにかを取り囲んで、一斉に銃撃をはじめた。だが、狭い室内での一斉射撃は混乱をうんだ。 当然のように味方同士での撃ちあいになったのだろう。『射撃をやめろ』とロギンズが声を張りあげ、部下たちの銃や腕を掴んで、躍起になって銃をおろさせようとしている。 

 スージーの感情にロギンズのとまどいや焦燥、そして怯えが伝わり、からだの表層、深層かまわず、満身にひろがっていく。

「ロギンズ!、怖がるなぁ。こちらにも伝わる!」

 スージーは反射的に叫んだ。こころのなかでの思念でも伝わるが、気づくと大声で叫んでいた。


 足がガクガクと震えはじめた。

 なにが起きているのかわからない。だが、ロギンズの生体反応がこちらに伝播しているのは間違いない。スージーはパンと脚をはたいた。

 わたしが怯えているように、自分の兵士たちに勘違いされるわけにはいかない——。

 だが、スージーにも戦慄する思いがあった。

 今ロギンズとともに渦中にいる兵士たちもおなじような状態にちがいない。

 今回は生身で戦闘に参加している者が大半だったヴァーチャル世界では再現しきれない本物のスリルを求める奇人か、ローテクのレトロな武器を愛してやまない偏人ではあったが、いずれも腕にある猛者もさばかりだった。

 だが今は恐怖に取り憑かれて、その見事な銃さばきも、正確な判断も無為となっている。頼みの綱であるはずの『素体』に憑依したアンドロイド兵や、自律型ロボットは全体の3分の1ほど混じっていたが、早々に動作不能に陥っていた。

 なぜそうなったのかが、スージーにはまったくわからない。

 だが、憑依しているはずのペルソナが抜け落ちた『素体』が、部屋のそこかしこに転がっている。


「ガイル、急げ!。ロギンズが何者かに襲われている!。援護を!」

 スージーは自分を搦めとろうとする『恐怖』の感情を振り払うと、ガイルにむけて上からの援護を命じた。が、その目に信じられない光景がとびこんできた。

 ガイルが降下しているエレベーター・シャフトの下の方から、なにかが上昇してくるのが見えた。暗いシャフト内を強烈なスポットライトがまたたく。そこにはまるで湧きだしてくるように上にむかってくる、その姿が浮かびあがった。


 魔法少女——!。

 

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