第399話 ウルスラ、国連本部に出向く
スイスにある国際連邦本部に直接出向くような事態が起きるなどとは、ウルスラ・カツエ大将はまったく予想していなかった。
だが国連軍が国際連邦の直轄軍である以上、いたしかたないことでもあった。
当初はリアル・ヴァーチャリティで『ゴースト』か『カバード』のどちらかを使えばいいと思っていたが、今回のような重大事案の賛同を得るには説得力に欠くと判断した。遠隔地から自分を投影させても、アンドロイドに意識を
結局は直接出向くというような儀式、前時代的なふるまいが不可欠なのだ。
数百年前ほどの時代錯誤な考えだとはわかってはいたが、人の心を動かすには、こういうことの積み重ねこそが存外に重要だったりする。
ロボット事務官に案内されて、ウルスラとミサトは地球連邦の議場に足を踏み入れた。前回この場に来たのは、ブライトの失態を問う公聴会の時で、自分とミサトはゴーストで参加し、そのときブライトとはじめて対面したのだった。
ウルスラはあらためて議場を見回してみた。
コロシアムのようにすり鉢状になった議席が何十列も並んでいて、ざっと見ただけでも数百人は座れるようになっていた。中央に引きずりだされた者は、それだけの数の目に晒されるという作りだ。とはいえ、この建物が立てられた23世紀とは違い、今はこれらの席に人が直接座ることはまずない。
ほとんど全員が遠隔からホログラム映像で参加しているからだ。それも顔だけでも大型ロッカーほどの大きさで映しだされるため、首から下は収まりきれない。だが彼らの常識では等身大の遠隔システムである『ゴースト』や『カバード』は論外らしい。おそらく等身大サイズでは、威圧ができないからなのだろう。
「カツエ、何か策はあるの?」
隣に立つカツライ・ミサトがウルスラに尋ねた。ミサトの顔に不安や焦燥が浮かんでいるようには見えなかったが、この場の雰囲気を嫌悪しているのは確かだった。
あの時、ブライトが各国の武官や文官に責任を問われたその場に、生身で立っているのだ。気持ちいいはずはない。あれは仕組まれた茶番だったが、自分たちはまったく先が読めない一発勝負にきているのだ。
「策があって、ここにきたわけではない」
ウルスラはミサトに言った。
「でも、ここの連中、簡単に縦に首を振りゃしない人種よ」
「ああ、わかっている。このわたしも振らなかった人種だからな」
「じゃあ絶望的じゃないのぉ」
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