第398話 とても人間として許される行為だとは思えない
結局、このさいごのひとりの確認には小一時間かかった。
おかげで、ヤマトの父たちが吸盤の亜獣を倒したのちも、しばらくのあいだその場で待機するはめになった。船はとっくに沈んでいたが、まだ船内のどこかに空気が残って、そのひとりが生きているのではないかと思われた。だが、じつは月基地で一人非公式に途中下船していたことが判明し、やっとそこで任が解かれることになったのだった。
「タケル、あたし思い出しちゃうの」
「なにをさ」
「あたしが投げつけて死なせてしまった人。まちがいなく生きてたし、たぶん獣人化もしてなかった」
「忘れなよ」
「忘れられるわけない。あたし、この手で殺したのよ、直接。とても人間として許される行為だとは思えない……」
「許されるわけがないだろ」
ヤマトがそう言うと、アイは驚いた表情でヤマトをみつめた。ヤマトはすぐ真下からこちらを見あげるアイをみつめかえした。
「それに許されようとも思ってない。ぼくらは正議のために戦ってるわけでも、人々の命のために戦っているわけでもないんだから」
「じゃあ、何のため?。そうしなければいけないって教育も訓練を受けてきたから?」
アイがヤマトのからだを揺らして訊いた。ヤマトは首を横にふってから言った。
「何のためなのか、ぼくはまだ知らない……」
ヤマトはアイの目をじっと見つめた。その場の思いつきや、その場しのぎで言っているのではない、という決意を知ってもらいたかった。
「でも……、父さんが、ヤマト隊長がぼくがマンゲツに乗る時に、その理由を知ることになるって言ってた。歴代のチーフパイロットだって、父さんとおなじ考え方だったんだからたぶんそれは正しい選択なのだと思う。だからそれまでは父さんの言うとおりに従ってみる」
「だけど、いつかぼくがマンゲツに乗るようになって、すべてを知った時、もしこんなことは無意味だと思ったら……、ぼくは、ぼくの意志でこんな残酷なことはやめにするつもりだ」
アイがヤマトに抱きついてきた。そして抱きついたまま言った。
「タケル、あなた、強いのね。でもあたしはとても乗り越えきれそうもない」
「いいよ。アイはそんなこと抱え込まないで。代わりにぼくが全部やってあげる。アイが嫌だと思ったことはぼくが全部やってあげるから……」
「ありがとう。タケル……」
ヤマトのからだに顔を押しつけたままアイが呟いた。
「でも、つらい……」
「あたし、こんなことをするために……、あんたにさせるために……、生まれてきたわけじゃない」
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