第377話 さて、ぼくはなにからしゃべればいいのかな?

「さて、ぼくはなにからしゃべればいいのかな?」

「まずは、この基地近辺にある亜空間の入口を教えてちょうだい」

 草薙大佐がきわめて事務的な口調で尋ねた。

「この基地の近くには二ヶ所だけ存在する。前回プルートゥが出現した駐機場の向こう側と、シミュレーションエリア近くにある富士樹海のなかだ」

「それより離れた場所も知っておきたい。なにか地図のようなものはありませんか?」

 草薙が食い下がるように尋ねると、エドは胸ポケットから3D投影端末を取り出した。エドが左手の上にそれを乗せると、カード型端末から上方にむけて3Dマップが投影された。それは富士山山麓を中心にしたマップで、この基地の周辺が一望できるものだった。その中心部分、自分たちが今いる地点は点滅しており、そこを起点にした基地の両端、表示領域のぎりぎりの場所に、二箇所に赤い点が点灯しているのがわかった。

「点滅しているのが現在位置。そして両端に点灯しているのが、亜空間の裂け目です」

 そう言うと、エドは3D空間を二本指で挟み込み、ぎゅっとつまむ仕草をした。とたんに地図の尺度が変わり、さらに広域が表示された。

 さきほどまで二箇所しかなかった赤い点は、たった数キロ離れただけで地図を埋めつくさんばかりに、たくさん表示されはじめる。

「今のところ特定できているだけで、これくらいあります」

 エドが言ったが、『ほら、調べるのなんて無理でしょう』という鼻に付く口ぶりだった。

「その青い点は何?」

 赤い点の中にまじって点灯している青い点を、草薙が指摘した。

「これは、前回アトンが出現した清水市にある清水グランドビルです。見ていただけますか、ここには亜空間の裂け目があります」

 そう言うとエドは慣れた手つきで、3Dマップをスクロールした。すこしスクロールしたところで、やけにギラギラと点滅する「×マーク」がある地点をアップにした。

「そして、ここが富士市にある富士ツインタワー。ぼくがここに亜獣が出現すると特定したことになっている場所です。ですが、よくみてください」

 エドがその場所のマップをズームアップしていく。高層のツインタワーの映像が映し出されただけだった。

「ここにはね。亜空間の裂け目なんてないんです。だからもしAIや研究班が事前にこの場所を亜獣の出現位置として特定しても、ぼくはここに亜獣が現れるなんて思うわけがないんですよ」

「なるほど、たしかにそのようだ」

 アルがマップを覗き込みながら言った。なにげない相槌だったが、エドにはことのほか響いたのだろう、エドは眼鏡をすこし持ちあげて、目頭をおさえた。



「なにものかが直前にデータを書換えて、座標軸を動かしたんだ。だが、ぼくはそれを再確認せずに連絡してしまった。それはぼくの責任だと思う」

 

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