第354話 アスカは気がはやる気持ちをとめられない

 アスカは気がはやる気持ちをとめられなかった。


 春日リンに緊急呼び出しをされたのは、就寝時間寸前の遅い時間だったので嫌味のひとつでも言おうかと思っていたが、リンの嬉しそうな様子にそんな気持ちは吹き飛んだ。

「カオリ、今すぐデミリアン格納庫に来て!」

 そのひと言でなにがおきたか察した。興奮のあまりアスカではなく、カオリの名を口にしたのだから。

 着替えている時間がおしかったので、アスカはパジャマの肩についている『サーフェス・コントローラー』をこすって、すこしでも外出着に見えるファブリックとスキンを急いで呼び出した。自分の部屋から飛び出して、早歩きしながらいくつか切り替えたが、階段の上まできたところで、リネンのからっとした風合いのファブリックに、太めのロンドンストライプ柄をみつけたのでそれに決めた。すこし長めのシルエットのパジャマだったので、このスキンならシャツガウンに見えなくない。


 アスカが階段の下のラウンジまでいくと、ヤマトとユウキがまだなにか話をしていた。つい先ほどまでパイロット全員でのイオージャ攻略についての会議が、解散になったはずだったが、このふたりはそのあとも討論を続けていたらしい。なにやらふたりとも難しい顔をしていた。

 アスカはとりあえずリンの元へ急ぐことを優先したかったので、ヤマトもユウキも無視してそのまま通り抜けようとしたが、それをヤマトが見逃すはずなかった。

「アスカ、こんな時間にどこへ?」

 アスカは自分を気づかってくれるヤマトの気持ちは嬉しかったが、今、ここ、この瞬間にいたっては、余計なお世話だという気持ちが先にたった。だが、それを気取られるわけにもいかなかったので、他愛のないひと言だけを投げかけた。

「たいしたことないわ、タケル。メイに……、リンに呼び出されただけ」

「こんな時間にですか?」

 さも瑣末さまつな用件のように軽く言ったはずだったが、ユウキがそれに食いついてきた。

「えぇ、こんな時間によ。だからなに?」

「いや、ひとりでパイロット・ルームを出るのは規則違反だし、なにより危ないのではないですか」

「大丈夫よ。入り口にいる警備隊のひとりふたり、みつくろってついてきてもらうから」

「リンさんはなんて?」

 ヤマトがずばりと核心に切り込んできた。

「なにも……。ただデミリアン格納庫にきて、とだけ」

 それだけでヤマトはそれがなにを意味するかを察したらしかった。

「アスカ、ぼくもついていくよ」

 ヤマトがソファから腰をあげながら言った。するとユウキもそれに追随してきた。

「それなら、わたしもご同行しようじゃないか」

「いやよ、ユウキはこなくていいわ」

 アスカはすぐさま断った。あまりの即断にユウキが面喰らった顔をした。


「あ、いや、アスカくん。わたしは必要ないというのかい」

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