第355話 アスカはあのときの戦いを思い出していた
「もー、勘弁して。レイが言ってたけど、あんた、自分の存在価値を否定したがるのはやめなさいよね。たしかにアカデミーではあんたは、あたしやレイたちより劣ってたかもしれないけど、ここにいるだけで、充分選ばれた、すぐれた存在なの!」
「では、なぜ?」
「はー、もうホントにぃ。あたしが言いたいのは、空気くらい読めってこと」
アスカはそう言ってヤマトのほうに目をやった。その視線の先をおってユウキの目がヤマトのほうへむくと、ヤマトは大袈裟に肩をすくめてみせた。
それでやっと察したようだった。ユウキは一度、わざとらしく咳払いをしてから言った。
「了解した。わたしは不必要なのではなく、今はお邪魔だったようだね。早々に自分の部屋にひきあげることにしよう」
アスカがデミリアン格納庫へ到着すると、ブリッジで春日リンと
「カオリ、遅いわよ」
リンが開口一番そう言ったが、ヤマトがアスカをエスコートしているのを見て、「あら、タケルくんも一緒なの?」とひと言付け加えた。
「リンさん、ぼくがいちゃあ、まずいみたいな物言いですね」
ヤマトがリンにすこし皮肉まじりに言うと、リンの代わりにショートが弁明してきた。
「タケルくん、まずいわけじゃないのよぉ……。でもネ、今回は女子だけでお祝いをやりたかったの」
「女子だけでお祝い?。なんのです?」
「あれよ。本日の主役」
リンが声をはずませて、ドックのほうを指し示した。
そこはアスカ専用機、セラ・ヴィーナスのドックだった。
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リンに指示されてアスカはパイロット・スーツへ着替えて、セラ・ヴィーナスに乗り込む準備をした。ここに来て着替えさせられたのは癪だったが、それよりも久しぶりにヴィーナスを動かせることにアスカの気分は上がりっぱなしだった。
「メイ。動かすわよ」
「えぇ、ゆっくりとよ。まだ完璧かどうかわからないから」
「ゆっくりと……」
リンのことばをゆっくり唇の上で
当たり前のことだが、まったく問題はない。まるで自分の腕とおなじように、スムーズかつ力強さあふれる動きをしてくれた。
次は右腕——。いや、亜獣プルートゥの左腕だったもの——。
アスカはあのときの戦いを思い出していた——。
プルートゥとの一戦——。
プルートゥはアッカムからひきちぎった砲身を、ヤマトの乗るマンゲツに向けようとしていた。アスカはそれを阻止するため、プルートゥめがけて槍を投擲した瞬間を狙われた。
プルートゥがアスカのセラ・ヴィーナスに砲口をむけた。
砲口からは溢れんばかりの粒子の光。
テラ粒子砲が至近距離で放たれ、アスカには『移行領域(トランジショナル・ゾーン)』のベールを展開する時間がなかった。次の瞬間、ヴィーナスの右腕は肩口からまるごと消えさっていた。
そして次の展開——。
ヤマトが切り落としたプルートゥの左腕を受けとると、アスカはうしなった左腕のつけ根にあてがった。肩の傷痕から立ち昇る青い菌糸状のようなものが、ゆっくりとあらたな代替の腕をつなぎはじめた。間に合わせの『腕』——。
それから……、あの腕は——、プルートゥの腕は、一度自分を襲った——。
右肩に結合していたプルートゥの左腕が、背中側から手をまわしてセラ・ヴィーナスの襟首を
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