第311話 そろそろ助ける時間にして

 セラ・サターンはいつのまにかロープを手にしていた。

 

 そのロープの先を見ると、薙刀なぎなたつかの真ん中部分からそれは伸びていた。セラ・サターンはショッピング・センターの屋上に背中を乗り上げたまま、そのロープをたぐり寄せようとしていた。からだは上をむいたままで、そこから身動きできなかったが、腕だけで薙刀なぎなたを引っぱっていた。


 前回の亜獣アトンとレイとの戦いの時の映像を、ユウキはふいに思い出した——。

 あのとき、レイは薙刀なぎなたをアトンのからだに突き立て、柄頭つかがしらから伸びるロープを巧妙に操って、ジェットスキーでもやっているかのようにして、街中を疾駆していた。

 レイはこの薙刀なぎなたをイオージャの股から潜らせてからロープを引っぱり、文字通り足元をすくって引き倒したのだ。


「ユウキ、そろそろ助ける時間にしてもらっていい?……」


 そのとき、レイの声がユウキにむけられた。

 目の前にショッピング・センターの上で寝そべったままになっているセラ・サターンの機体がある。レイは引っぱって手元に戻した薙刀なぎなたの終端を掴んで、それを天にむけて思い切りつきあげていた。

 迷うことなどないレイからの指示。

 その薙刀なぎなたの先端を掴め!、ということだ——。


 イオージャが起きあがり、もう一度こちら側に尻尾を向けようとしたのが見えた。だが、今度は圧倒的に優位な十数秒の時間を、こちらは手にしていた。セラ・マーズはセラ・サターンのすぐ上を滑空していくと、薙刀なぎなたの柄をぐっと掴んだ。

 セラ・サターンのからだが屋上から引き剥がされると、途端にズンと体重がかかる。だが、セラ・マーズは、それを持ち上がられないような柔な性能ではない。

 ユウキはバーニアスラスタを上にむけ、超流動斥力波を思い切りふかした。

 お互いに薙刀なぎなたの終端付近を掴んだままの状態で、二体のデミリアンが空中へあがっていく。

 地上では突然ターゲットが消えて、イオージャが右往左往しているのが見えた。

 もう大丈夫だ——。


 そのときアルがモニタ画面に現れた。あからさまに安堵した表情を隠そうともしない。

「レイ、すまなかったな。戻ったら新しい武器を考えるからな」

 ユウキはさすがのレイもアルにすこしは腹をたてるだろうと思ったが、レイはただ首を横にふって言った。

「ええ、そうね。でも今回は長いのが役にたった……」

 ユウキは思わず口元を緩めた。

 まったくレイらしい。

 レイ・オールマンという人間は結局、与えられたもので、最大限の結果をもたらすことができるのだ。長い、短い、軽い、重いは関係ないのだろう。たぶん……


 ユウキはモニタ画面に映る地上からこちらを見あげているイオージャの姿を見つめた。 

 レイが突き刺した両頬が血で赤らんで、まるで頬っぺたが真っ赤になっているように見えた。可愛いとは言いがたいが、不安を感じさせる不気味さはかなり払拭された印象の顔つきになっていた。

 レイがイオージャの顔を見ながら呟いたのが聞こえた。


「底意地の悪さがとれて、すこしスマートになった……」

 レイがイオージャの顔を見ながら呟いたのが聞こえた。

「スマート?。レイくん、それはカッコよくなったってことかな」



「そんなわけない。生意気スマートになっただけ」

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