第308話 レイ、万策尽きる

 万策尽きた——。


 アルにすこし皮肉めいて言ったが、実際には本当にその通りで、レイは自分が完全に追い込まれていることを自覚していた。

 腹立たしいことに、こういう危機にも関わらず、もうひとりの自分が出てこない——。

 『  』くうはくがでてきてくれれば、この窮地を逆転する方法も考えつくにちがいないはずだ。

 レイはもう一度薙刀なぎなたを構えた。おそらくおなじ手は二度使えない。それはわかっている。だが、今自分がやれるのは、イオージャの体当たり攻撃を牽制することくらいしかできない。

「レイ、待たせたわ。スクランブル発進した中華合衆国の戦闘部隊が到着したわ。こいつに時間稼ぎをしてもらうから」

 ミサトがカメラのほうへからだを乗り出すようにして伝えてきた。正面にある9面のモニタの右上に、飛んでくる戦闘機の機影が映し出されていた。

「スクランブル発進?。出動要請からこんなにかかって?」

「そう言わないでよ。政治的ななんやかんやがあるのよ」

「でも通常兵器はイオージャには通じない」

「わかってる。でもイオージャの邪魔くらいはできるでしょ」

「全部で何機?」

「20機だ、レイ。20機だけ融通してもらった。アンドロイド経由で操縦している無人機だ」

 ミサトの代わりにヤマトが答えた。

「この20機を駆使してイオージャに次の電撃攻撃を撃たせないようにさせる。そのあいだにユウキが助けにもどってくるはずだ。それまで逃げ回るなり、なんなりしてイオージャからの攻撃をくらわないようにしてくれ」

「タケル、あなたが指揮するの?」

「あぁ、ぼくがやる。できるだけ時間を稼ぐつもりだ……」

 ヤマトはそれだけ言って、すぐに押し黙った。

 つまりは、時間はそんなに稼げない——。


 セラ・サターンの上空に戦闘機が現れた。

 まず5機の戦闘機が横一列のアブレスト編隊で、まるで墜落してくるような急降下で一気に高度をさげてきた。そのままイオージャにむかって突っ込んでくる。

 飛行音が一気におおきくなってくる。地上にいればまちがいなく耳を塞ぎたくなるほどの爆音だ。

 まずは先陣をきった5機がイオージャに特攻していく。

 がその正面にあっと言う間に魔法少女たちが集まり、すぐさま10数メートル四方ほどの壁をつくる。戦闘機はそんな人の壁などに怯むことなどなく、迷いもなく突っ込んでいく。

「まじかるぅぅぅ」

 少女たちが一斉に叫んで手に持ったステッキをふると、まだ数百メートル先にあったはずの戦闘機が全機とも火をふいて、そのまま空中で爆発して四散した。


 だが、その間隙をぬって真上から次の5機の戦闘機が今度はV字編隊で急降下してきた。

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