第305話 あの武器には致命的欠点がある

 あの武器には致命的欠点がある——。


 アルは常々指摘されていたその問題点を、薙刀なぎなたを構えたレイを見て、今まさに痛感させられていた。

 あの武器は片手では使い物にならない——。


 あの武器は自分が考案したものではない。初代が考えついたもので、三代目の自分はそれを引き継いだにすぎない。だがヤマトの乗るマンゲツのサムライ・ソードも、アスカのヴィーナスの槍も、ユウキのサターンのレイピア刺突剣(堅牢な作りのサーベル)』も、クララのジュピターのブロードソード(広刃剣)とムチも皆片手で使えるものだ。

 だが、薙刀なぎなたはそうはいかなかった。槍のように使えなくもないが、槍ほど貫通力もなく、刀のように振り回すには柄が長すぎた。レイからは、西洋の大剣のような武器にして欲しいというリクエストがあったが、対戦する敵によっては小回りがきかずに、むしろマイナスになる、という理由で却下していた。

 だが、そのせいで、今まさにレイがピンチを迎えている。

 アルは足が震える思いだった。

 もし自分が用意した武器が非力だったせいで、レイに万が一のことがあったとしたらどうすればいい……。

「アル、レイになにか武器、渡せないの?」

 ふいにミサトが頭のなかへわめき声を送り込んできた。めずらしくヒステリックな声になっていたが、おかげで自分の心を締めつけかけていた陰鬱な気分が消し飛んだ。

「ミサトさん、すまねぇ。あの場所に送り込めるモンはねぇ」

「だったら、せめてユウキのサーベルでも」

「間に合わねぇし、ほかの個体の武器は基本的に使えねぇんですよ。個別にカスタマイズされてますから、使えたとしても『移行領域トランジショナル・ゾーン』の向こうに届くかどうか……」

「じゃあ、どうすればいいのよぉ」

 アルの脳内のニューロンを数本ぶちきるような勢いで、ミサトが怒りと憤りに満ちた感情をぶつけてきた瞬間、イオージャがレイのサターンに組み付いてきたのが見えた。


 レイは体当たりしてくるイオージャのからだがぶつかる寸前に、ビルに掴まっていた腕をぎゅっと縮めると、反動をつけてビルの壁を突き飛ばした。サターンのからだがビルから飛び出すように離れ、反対側のビルへいきおいよくぶつかる。その衝撃でビルの窓がいっせいにパーンと割れた。運悪く窓際で戦況を見ていた人々の何人かが窓から落ちていく。

 突然、横に飛び退いたサターンの動きについていけず、イオージャはそのままなにもない空間に飛び込む形になった。あまりに勢いがついていたせいか、そのまま数十メートル先まで走っていき、つきあたりにある低層のビルを数棟破壊してからとまった。

 イオージャはゆっくりと振り向くと、壁につかまり立ちをしているサターンを睨みつけた。追いついてきた魔法少女たちの群れが、その周りを舞いはじめる。


 やがて亜獣の周りに空間を覆い尽くすように、魔法少女たちが集結していった。

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