第303話 こんなにも使えないもなのか——

 機動力を奪われるとデミリアンは、こんなにも使えないもなのか——。


 レイはセラ・サターンをビルの陰に体を身を潜めたまま、ユウキが空中から降下してくるのを見ながら、今の自分の状況を冷静に分析した。

 あのとき、魔法少女からの電撃攻撃をギリギリのタイミングでかわした自信があった。目の前にいるイオージャの足元に転がりでたことで、予期せぬ攻撃を間近に受けるのではないかという不安のほうがむしろ強かったほどだ。ところが絶縁体でおおわれているはずの地面や建造物を通して電流が走り、セラ・サターン本体がダメージを喰らってしまった。

 下半身が制御できないほどの大きなダメージだ。

 流れ弾をくらった程度でこれほどの痛手をこうむるとは、レイは思いもしなかった。だが直撃を受けたクララのセラ・ジュピターはそんなレベルではなかった。

 それをすぐに察したからこそ、曲がりなりにも動ける自分が囮になると決断できた。だが、まだその脅威の全容が解明されていないイオージャの気を引きながら、逃げ回るのはさすがのレイでも骨がおれた。

 まず『SOL740』で地上にあったビルの多くが消え去っていたので、すぐに身を隠せるビルが見つからなかった。次に上半身と腕だけで腹這いのまま、大通りを這い回ることが大変だった。反応しなくなった下半身をずるずると引き摺って匍匐ほふくしていく。

 イオージャに捕まるわけにはいかなかったが、イオージャを引きつけ損ねるわけにもいかなかった。もしイオージャが電撃を放てば、クララは間違いなく餌食になる。

 亜獣の位置情報に集中してタイミングをさぐる。まるで敵から身を隠しながら任務を遂行する「ステルス系」ゲームでもやっているような錯覚におちいったが、残念なことにこういう時に鍵って、『 』くうはくがでてきて助けてくれる様子はない。


 あの人格は、代わってほしいときには無視してくる——。


 レイは少々腹立たしかったが、そもそも今までのつきあいで自分の願ったようになったことはなかったので、今さら不満をつのらせても仕方がない。

 

 だが、レイの努力もむなしくイオージャとのかくれんぼは、ものの数分しかもたなかった。どういうわけか亜獣の標的が、地面に横たわったままで身動きできないセラ・ジュピターの方へむけられたからだ。もしかしたらテレパシーのようなもので、魔法少女たちに呼ばれたのかもしれない。

 ここまでのせっかくの努力を無為に終わらせるわけにはいかない……。


「ユウキ、あとどれくらいで来れる?」

「あと30秒、いや20秒もらえないだろうか?。今急降下中だ」

「わかった。あと10秒だけ、わたしが時間を稼ぐ。だからなんとかして!」


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