第292話 通常兵器をしこたまぶっ込んでやりましょう
「欲張りすぎよ。ミサト」
春日リンがそこにすっと割って入ってきた。
「あの魔法少女だって学習するわよ。たぶん、すぐに全身を『移行領域(トランジショナル・ゾーン)のベールで覆って、攻撃を防御してくるわよ」
リンはほかの人にわからないように、軽くウインクを送ってきてから言った。
「攻撃力を全部使ってでもね」
うまいタイミングで自分のミスをカバーをしてくれた、とミサトは思った。間抜け面を晒さずにすんだ。
「そうね。つい勢いこんだわぁ。まず、数を減らすことに注力しましょう。あれはいくらなんでも数が多すぎるわ」
「そうね。タケルくんの提案通り、『通常兵器をしこたまぶっ込んで』やりましょう」「じゃあ、各国の国際連邦軍支部にしこたま要請するわよ。アル、今、あそこ、武漢の現場に要請できる攻撃方法ある?」
アルがすぐにスクリーンにでてきてきた。
「あぁ、すまねぇな、ミサトさん。まず一番速いのは、衛星からのビーム砲だな。だけどあんなちっこいヤツらにうまく当たるかどうかは、やってみねえとわからねぇな」
「アル、じゃあ、当ててちょうだい。全部でなくていい。半分、いえ、その半分でも削れればいいわ」
アルへの指示もそこそこに、ミサトはミライのほうへ指示を飛ばした。
「ミライ、中国合衆国の軍隊に出動要請。無人でも、有人でも構わないから、戦闘機をスクランブル発進させてちょうだい。できる限りたくさんお願い」
「何機ぐらいでしょうか?」
「できる限りよ。ミライ、聞いてた?。いけるなら百機でも二百機でもかまわないわぁ」
頭ごなしの命令に、ミライは不満そうな表情をしたが、それでもすぐに出動要請の手続きを手際よくはじめた。それに連動してほかのクルーたちも、一気に動き始める。
ミサトは司令室内の空気を自分がうまく操れていると感じはじめていた。本来の自分のペースにみんなを巻き込めてきている。ミサトはウルスラ総司令のほうに顔をむけて、軽くウインクをしてみせた。
余裕だ——。余裕で亜獣に対抗できる。
だが、初陣を勝利で飾ってやろう、などとは欲張らない——。
いままで歴代の司令官は、初陣から亜獣を倒しにいこうとして手痛い目にあっているのを、ミサトは熟知していた。未知のモンスターに経験や力技で勝てるほど、亜獣との戦いは簡単ではない。
今回は次回につながる情報や、ある程度のダメージを与えらればそれでいい。少々の犠牲があったとしても致し方がない。だが、その犠牲を生かす戦いが、次にできれば良いのだ。
ミサトが命令を口にだした。思念で送りつけてもいいが、これだけ気分が高揚しているのだから、つい口をききたくなる。自分の声は心なしか弾んで聞こえた。
「エド、イオージャの動きはどう?」
「今のところ、めだった動きはありません」
「レイ、クララ、そっちはどう?」
「特にありませんわ。ずっと私たちの上空をぐるぐる翔んでいるだけです」
「なにか、動きがあったらすぐに言ってよぉ」
「言って?。言ってどうなるの?」
レイがもの静かな声で噛みついてきた。すくなからず反発にちかい感情が含まれている。もしかしたら本部からの指示が遅いとか、情報がすくない、とかいう不満の発露かもしれない。だが、今はレイに主導権をゆずるわけにはいかない。
せっかく戦闘の流れをつかんでいるのだ。リズムを狂わされたくない——。
そう言えばこの子は扱いにくいと、ブライトの報告書にもあった。ヤマト・タケルを御するのは、並大抵のことではないと嘆いていたが、レイについては手綱すらついていないという口述があったのを思いだした。
「いえ、何かあったらでいいのよぉ」
ミサトはことばを濁した。が、レイはすでに興味をうしなっているのか、まったく聞いていないようだった。ただ、じっと空の一点を見つめている。
と、いきなり操縦桿をひきしぼった。
あっ、と思った時にはレイのセラ・サターンは手に持ったナギナタを、魔法少女がひときわ密集しているエリアに投げ放っていた。
魔法少女たちの群れの正面に瞬時に薄いベールが出現したのが見えた。
『移行領域(トランジショナル・ゾーン)』のベール。
そのベールで覆いきれなかった外周側にいた魔法少女たちは、さらに外側にあわてて逃げていく。まるで空を彩っていた華やかな色の塊が、一瞬にして粒子となってあたりに散らばっていくようにみえた。
レイの投げたナギナタの軌道は実に正確だった。その刃先に宿った力が『移行領域(トランジショナル・ゾーン)』のベールを貫いた。その刃は真正面に陣取っていた魔法少女、数人をあっという間に切り裂き、何体かを串刺しにした。
一瞬にして本部内の空気がザワッと揺らいだ。
パニック状態になった魔法少女たちは、さらにおおきく広がって逃げまどっていく。だが、その時そのなかの一体の魔法少女がレイのセラ・サターンにむかって突撃してくるのがみえた。
魔法少女が直滑降で突っ込んでくる。
だが、レイはそれを迎え撃つのになんの
パンという柏手をうつ音とともに、セラ・サターンの手のまわりから
レイは手をひらいて潰したものを確認すると、ミサトにむかって訊いた。
「ミサト、このあとどうするか指示して」
「指示……?。どういう?」
レイはなにも言わずにセラ・サターンの手のひらを開いてみせた。ぐちゃぐちゃになって潰れた魔法少女の死体がそこにあった。頭は頭蓋が潰れて、顔どころか頭の形すらわからない。からだは腹が破裂して内臓がはみ出ていたし、片方の腕はもげかかっていた。
「だって、これただの人間……」
正面のスクリーンに、レイのコックピットの右側の壁の映像が映し出されていた。
デッドマン・カウンターの数字が『8』を表示していた。
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