第290話 レイの考察

  後方への攻撃しかできないイオージャが、なぜか前方の人々を感電させているというエドの報告から、レイはいくつかの可能性を考察した。

 導きだされたレイの答えは3つ——。


 レイはそれを本部に進言しようかどうしようか迷った。

 もう現場は目の前で時間は限られていたが、もう一度冷静な頭で考えなおしてみることにした。もしかしたらもうすこし絞れるかもしれない——。


 ひとつ目の可能性は、じつは後方への攻撃はフェイクで、実際には本部の方でも確認できていない前方への攻撃方法があるのかもしれないということ……。

 そうなると後方への強力な電撃以外に、もうひとつ隠し玉があるという、厄介な可能性にいきつく。超耐電素材におおわれてはいても、同時攻撃に晒された場合、耐えきれないかもしれない。さすがのアルも多層的に重なった攻撃は想定していないにちがいない。

 

 ふたつ目の可能性は、この電撃は指向性を持っているということだ。なんらかの形でこの亜獣は電流を操ることができ、自在に思った場所に電流を走らせる能力があるということだ。万が一、電撃を標的を追尾できるようなことがあれば、相当に面倒なことになる。ビームや針の攻撃と異なり、電流は障害物などはものともしないで、くぐり抜けてくるだけにたちが悪い。

 だが、どちらの場合であっても、もしデミリアンの脅威になりうる。それは本能的に感じとれた。間違いない。


 だが、この2つの仮説はいずれもある一つの重大な命題を満たしていない。そう、すでに感電死させられた人々の死因の説明にはなっていないのだ。どちらの攻撃をあたっても、現在の建物はすべて耐電構造になっているのだから、部屋の中までは届くわけがない。いや、もし届いたとしても、おおきく減衰している電気では、人を死にいたらしめるような力は持ちえないはずだ。

 そうなれば合理的な説明がつくのは最後の残った仮説しかない。しかもこの説はヤマトとリンが会議の席で披瀝した仮説とも整合性がとれる。


 レイは本部が映し出されたモニタにむかって言った。

「エド、感電死した人たちがいた場所に亜獣反応がなかったか調べてもらえる?」

 その依頼が琴線に触れたのか、エドより先にミサトが口を狭んできた。

「レイ、ちょっとぉ、それ、どーいうこと?」

「それは言ったままの意味……」

「だからぁ、どういう意図で訊いているのか、尋ねているわけぇ?」

 ミサトは立腹しかかっていたが、エドの報告がそれを阻止した。

「いや、レイくん。亜獣反応はない。あのイオージャだけだ」

「見せてもらえる?」

 目の前のスクリーンに現場のビルのデータが浮かびあがった。それは被害のあった40階建てビルの3Dデータで、各部屋の被害状況が透視図としてすぐにわかるようになっていた。そこには 犠牲になった人々全員の場所が人型のアイコンで示されており、その上にマークが点滅し、その人の現在のステータスがわかるようになっていた。

 このビルにはぱっと見ただけで100人ほどの住人がいたようだったが、全員のアイコンのうえに『どくろマーク』が点滅していた。つまり助かった人はだれひとりいないことだ。

「エド、センサーの感度を最高にまで高めてくれる?」

「センサーの感度を?。そうか、ちょっと待ってくれ、試してみる」

 エドはそう言うなり、中空で指を動かしながら操作をはじめた。すると、ひとりの犠牲者のアイコンのすぐ近くに赤い点がポツンと灯った。

 すぐにもう一点——。

 あっと言う間に、二点、三点と点が穿たれはじめ、ビルの3Dデータが赤い点で満たされていった。


 もう誰が見てもわかった。


 犠牲者以外に誰かがいたのだ——。

 その赤い点は犠牲者のすぐ近くに寄り添うように点灯していた。


 もし報告通りこの赤い点のその正体が魔法少女というのなら、犠牲者たちには最後を見看る『天使』のように見えたかもしれない。

 だが実際は、命を奪いにきたただの『死に神』だ。


「は、タケルとメイの言った通りじゃない」

 アスカがまるで勝ち名乗りをあげるような口調で声をあげた。

「うん、もう一体いた」

 レイはアスカの奢り高ぶった声色は無視して、とりあえず賛同の意だけを伝えた。

「レイ、一体ごときじゃないでしょ。どうみても300から400はいるわよ」

「そうね。つまりあの場所の近くに400体の魔法少女がいるっていうこと」

「ちょっと待ってください、レイさん。じゃあ、もしかして、わたしたちはあのイオージャという亜獣以外に、その400体の魔法少女とも戦わないといけないってことですか?」

 クララがまたヒステリックな声をあげた。

 レイはすこしうんざりしてきた。

 次々と判明する事実にナーバスになるのはわかるが、ここまで来たらなるようにしかならない。その時のベストを尽くすだけだ。

 そう覚悟すれば、怯えている暇なんかない。



 その時、ミライがポツリと呟いた。

「あれ、なにかしら?」

 レイはすぐさま上を見あげた。

 上空になにかがうごめいていた。なにかわからない。レイは映像でしかみたことがなかったが、二百年ほど前まで群れで空を翔んでいた『鳥』という生物に似ていると感じた。

 そう、なにかの群れが空を翔んでいた——。


 レイの思考を読み取ったAIカメラが、対象物をズームにして映し出した。



 魔法少女の群れだった——。

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