第225話 撃ち抜いても死なないのですか?
クララは心が高ぶる思いを抑えられなかった。
もういちどヤマトに切込み隊長をまかされたのだから。今度は志願ではなく……。
しかし、そのちょっとしたうぬぼれは戦いがはじまるやいなや、あっという間に打ち砕かれた。
クララはヤマトに指示されるまま、大きくジャンプすると、空をふさぐ海と地面のちょうど真ん中あたり三十メートルほどの高さに停止した。その位置で浮遊しながら平原を見下ろすと、ヤマトの言っていたように、地面に
自分の仕事はこの上空からそいつらを掃討すること。それは先ほどのステージとそれほど変わることがない。いや、左右や上から襲ってくるイレギュラーなうごきをする敵がいないのだ。むしろたやすいかもしれない。
ちょっと物足りないな——。
クララはそう呟いてガトリング銃の
だが、ホワトスは倒れなかった。撃ち抜かれたゴーレムの反応は、すこしだけよろめいたというレベルだった。
「クララ、削りとれ!!」
上後方からからヤマトの
「撃ち抜いても死なないのですか?」
ヤマトは十メートルほど上の、海面に髪の毛がつきそうなほどの高さの位置にいた。いつでも剣を抜ける構えのままの姿勢で、浮遊している。
「あいては
クララはその物言いにすこしイラッとした。
「じゃあ、どうすれば?」
銃弾を浴びせまくって、弾丸でホワトスのからだを削りとってくれ。それだけでヤツラの動きはとまる。そこをレイが根こそぎ
すっかり舞いあがっていた気分が、それこそ根こそぎ薙ぎ払われたように、意気消沈していくのが、クララにはわかった。
今回の主役はわたしではない——。
自分は主役のレイを援護しろということなのだ。無駄だとわかっていたが、クララはヤマトのほうに強い視線をくれて抗議の声をあげてみた。
「タケルさん、その作戦では、わたしのポイントは減ることはあっても、増えることはありません」
ヤマトはにっこりと顔をほころばせて、屈託のない笑顔をしてみせた。
「だから、さっきのステージで一番多くポイントを稼がせておいたろ」
あぁ……、そういうこと……。
すこし失望感のまじった、それでいて合点がいったような気分が湧いた。だが、その顔には、怒りに満ちたような悔しさにゆがんだ表情が浮かんでいた。クララはそれに気づいて、あわてて前に顔をもどした。
今のをタケルに見られてなければいいけど——。
クララは自分の失態を悔いると同時に、ひとの扱いにぞんざいなヤマトの態度に腹立ってもいた。ヤマト・タケルという男は亜獣を倒すために、どんな犠牲をもいとわない、と理解していたが、実際に自分にそれがふりかかると、やはりネガティブな感情が先にたつ。 うわさでは亜獣をたおすために、仲間を見捨てたとか父親を殺したとか、まことしやかに囁かれていたが、案外ただの噂ではないのかもしれないと痛感した。
そのとき、下の平原からレイが声を張りあげてきた。
「クララ、弾幕薄いわよ。どうなってるの!」
クララはすぐさま平原を見下した。考え事に手元がおろそかになっている間に、手がつけられないほどのゴーレムどもがレイの前にたちふさがっていた。
ざっと見渡しただけで四、五十体ほどいるだろうか。
どこから湧いてでたの?。
そんな疑問がうかんだが、そのときには反射的に引き鉄をひいていた。だが残りの弾はわずかで十発程度がゴーレムの表皮をすこし削ったていどだった。
クララは舌打ちをした。弾丸の補充を忘れていた。
「レイさん、ちょっと待ってていただけますか?」
クララは手元のガトリング銃に手をかざした。光が
だがそれでもクララはまだとめない。
行き場をうしなった弾丸ベルトは、その場にとぐろを巻き始めた。
クララが顔をあげた。口角がきゅっとあがって、すこし企みに満ちた表情を浮かべている。
わたしすこし
クララは自分でそれをすこし自覚しながら、一気に引き鉄を引き絞った。
十門ある回転式銃口が高速回転し、膨大な数の弾丸が吐き出された。空から吊るされた弾丸ベルトがみるみる上へと引き揚げられていく。と同時に、飛びだす薬きょうが、土砂降りの雨のように落下していく。
レイの前に立ちはだかっていたホワトスの数体が消し飛んだ。いくら
クララがとどめを刺しきれなかったホワトスは、レイが手早く片づけた。レイはほんのひと振りするだけでよかった。それでポイントはすべてレイのものだ。それでもレイの太刀筋は見事なものだった。銃弾を浴びて弱くなった敵だけでなく、自分で描いた導線に沿って、流れるような太刀筋でもっとも効率のいい戦い方をしていた。 無駄をまったく感じさせないおそろしいほどの
さすがレイ。最善手でこの『ゲーム』をクリアするつもりなんだわ。
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