第224話 それほど海からの攻撃は危険だということ……

 レイはヤマトの作戦を聞いてすこし驚いた。


 自分とクララだけに戦わせて、ほかの三人が監視役というのはどう考えても非効率的だ。現実世界なら、体力温存という選択肢は理解できるが、この世界ではまったく無用だ。ポイントを稼ぐことで、体力をつけることができるのだから、休むことがその先の戦いにつながるとは到底思えない。

 となれば、海から襲ってくるモンスターというのが、本当に厄介なのだろう。

「タケル。わたしとクララだけで、ポイント獲得しまくってほんとうにいいの?」

「あぁ、もちろんだ」

「レイ、むやみにポイント貯めたからってエラくもなんともないわよ」

 アスカが嫌味をぶつけてきたが、レイはもうひとつ疑問に感じていることがあったので、そのままヤマトにぶつけてみることにした。

「なぜ、地上のゴーレムを倒さないといけない?。全員で空を飛んであの塔まで行けばいいと思うけど?」

 ユウキもそれについて疑問があったのだろう。すぐさま援軍に加わった。

「タケルくん。わたしもそれは不思議に思っていた。平原の敵を倒している最中でも、海からの、そのモンスターとやらに襲われる可能性があるのなら、いっそのこと海のモンスターを相手にするか、どちらも無視して通り抜ければいいのではないかと……」

 ふたりに疑問を提起されたことで、アスカとクララもあらためてその矛盾に気づいたのか。ヤマトのほうに答えを催促するような視線をむけた。ヤマトはその視線にプレッシャーを感じることもなく、やれやれという表情を浮かべた。

「この場所『グレーブヤード・サーバー』は元々、ゲームサーバーだったと言ったと思うけど、特にこの階層はほぼ最下層に近くて、難関ゲームのエリアだったところなんだ」

「回避できないの?」

 レイは前置きが長くなりそうだったので、単刀直入に問題点に切り込んだ。

「このステージでは、もし平原のゴーレムを無視して通り抜けようとすると、ゴーレムに翼が与えられて空中戦へと展開する。これは想像以上にやっかいだ。逆に海のモンスターとの戦いを選択すると、水中での戦いがメインになる上、まったく別のゲームルールが適用され圧倒的に不利になる」

「上と下では、別のゲーム、っていうことになるのですの?」

 クララがそう念をおすと、ヤマトは「海エリアは四百年前にはやった『リズムゲーム』や『タイミングゲーム』に変化する」と答えた。そう端的にまとめられても、さすがにわからなかったのか、アスカがヤマトにもうすこし詳しく説明するように催促した。

「タケル。リズムゲームはわかるけど、タイミングゲームってなによ」

「QTE、クイックタイムイベントと呼ばれた、イベントシーンで、特定のボタン・キーを入力をするゲームだよ。ここでは敵と遭遇すると目の前に矢印やコマンドが現れる。その点滅にあわせて武器をふるわなければ、相手にヒットしない」

「は、それなら簡単よ。デミリアンの訓練で、動体視力や反射神経は、嫌っていうほど鍛えさせられてるわ」

「わかってる。だが問題は、そこが海のなかってことなんだ」

「それじゃあ、その『矢印』がでてから攻撃をしても間に合わないですわね……」

 当然の結論をクララが漏らすと、ヤマトが肩をすくめてみせた。

「まぁね」

「だから難関ゲームエリアにあると?」

 ユウキのだした結論には『それは厄介だ』と言外に込められていた。

 レイはヤマトのたてた作戦の疑問が払拭ふっしょくしたので、背中から剣をひきぬいてチェックをはじめながら言った。

「つまり、平原のゴーレムを倒すしか選択肢がない……ということね」

「あぁ、レイ、頼む。最低ひとりは地に足をつけて戦い続けてないと、ゴーレムが空に舞ってくる。なんとか頑張ってくれ」

「あら、タケルさん。わたしは?」

 クララが急に不満めいたことばを言ってきた。

「あぁ、クララ、きみもゴーレムとの戦いに専念してほしい。上からの攻撃はぼくとユウキ、そしてアスカがなんとかしてみせる」

 レイは力のこもったヤマトの決意をきいて、自分の役割はそれほどではないのだと理解した。

「つまり、それほど海からの攻撃は危険だということね」

「あぁ。ぼくはそう理解している」

「そう……。じゃあ、タケル。警護お願いするわ」

 そう言って、レイはフィールドに足を踏み入れた。

 たちまち平原に一陣の風が吹き抜けた。草木が大仰な音をたて揺れはじめると同時に、上空の海の水面みなもが波打ちはじめる。地面から敵のゴーレム『ホワトス』とおぼしき異形の化物が這い出してくるのが見えた。

 レイは地面に手をあてた。むこう側をみすえると、この平原は軽い傾斜があり、奥にむかって上り坂になっていることがわかった。レイは大剣をぶんと一振りして気合いをいれたが、ふと気になったことが頭に浮かんだので、首だけを振り向かせてヤマトに尋ねた。

「タケル。海のエリアのゲームはどうやったら参加できるの?」

「参加?。いや……、海にからだ全部が引きずり込まれなければ大丈夫だ」

 レイは全員をみまわした。

「みんな。海に引きずりこまれないでね……」


「さすがに、助けにいけそうにないから、わたし」

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