第198話 君たちの新しい仲間を紹介しよう

「君たちの新しい仲間を紹介しよう」とウルスラ総司令が晴々とした表情で声をはったのをヤマトは、いくぶん苦々しい気分でみていた。

 先ほどまでのヤマトとの張りつめた空気感など、露ほども気にかけてない。

 かなり手ごわい相手とみて良いだろう。


「ん、もう、勝枝。それ、あたしの役目だったじゃない」

 ミサトがすこしすねるような声色で抗議した。

「ああ、そうだったかね。それはすまんことをした」

 ウルスラは詫びたが、ミサトは頬をふくらませていた。

 まだへそを曲げてるぞ、という意志表示だとヤマトは理解したが、あまりにわざとらしいので、ちょっと吹き出しそうになる。女という性がむき出しすぎで、ヤマトには苦手というのを通りこして、ちょっと滑稽こっけいに思えた。


 その時、上空からゴーッと大きな排気音のようなものが聞こえてきた。

 いよいよやつらのお出ましだとわかった。ヤマトはすばやくアスカとレイに目くばせした。アスカは再確認しなくてもわかってるわ、という抗議の目つきを、レイはそもそも再確認すること自体が無用だという冷めた目をむけてきた。

 ヤマトたちの背中に影がおちた。

 ヤマトは上を見あげると、驚いた声をあげてみせた。


「あれは……。セラ。ジュピターと、セラ、マーズじゃないですか」

 上空から大きな羽根の装甲をひろげた二体のデミリアンが舞い降りてきた。

 ヤマトは驚きを隠せないふうを装ったまま、二機の各部をすばやくチェックした。

 ほんの数時間前に負わせた装甲のキズはまだ生々しく、ビームが着弾した個所は黒く焦げたあとが残っている。

「この二機はどこから?」

「うふん、月基地からよ」

 ミサトがすこし得意そうな口調で言った。

「月基地から?。じゃあアスカやレイと同じ『クロックス』の連中が操縦してるのか?」

「たぶんね。ほかにいないでしょ」

 アスカが横からヤマトに話を合わせるように言った。

「ミサト、順番でいけば、ユウキとクララのはずだけど、彼らで間違いない?」

「うふん、その通りよ。よくわかったわね」

「だって成績優秀者、四位と五位だから……」

 その問いには、レイが答えた。


 ずうううんと重々しい音ととも二機が同時に着地した。羽根から出ている音波が、エプロンカーゴの床の上の微細な挨をまきあげる。


 すぐにデミリアンからパイロットが降りてきた。

 遠めではあったが、タケルはセラ・ジュピターから降りたった女性のほうに、たちまち目を奪われた。

 まず最初に、本当に、彼女はパイロットなのか?、と頭に疑問がひらめいた。

 それほどまでに端正な顔立ちをしていた。

 もちろん、今の時代、『デザイナーズ』と呼ばれる、優性遺伝子を選択して産まれてきた人種や、AI整形や化粧ロボットなどが当たり前なので美男・美女が、いや、美男・美女だけが氾濫はんらんしている。

 そういう世の中だ。

 この基地のクルーもほとんどがなにかしらの施術を受けているはずだ。

 だから『美人』には免疫があるし、いまさらことさら目を見張ることもない。

 だが、なんの細工もなく、目をみはるほどの美を体言しているとなると、心穏やかではない。ヤマトはアスカが彼女に、ことさら敵愾心てきがいしんをむけていたのも理解できるような気がした。

 

 そして、セラ・マーズから降りてきた亜沙・歴あすな・ゆき

 つい数時間前まで、目と鼻をつきあわせて対峙たいじしていた今では、すでに旧知といってもよかったが、あらためて観察すると、あらたなる発見があった。

 周到な計算を絶え間なく働かせながらも、大胆なアプローチと直感的な判断をもこなす人物という評価を、ヤマトはすでに彼に与えていたが、彼にはそれだけではなく、品の良さのようなものがあった。

 自分とおなじ背格好ながら、ランウェイを歩いているような洗練された身のこなしや、軍人然とした落ち着き払った顔つきは、とても自分と同年代とは思えない。アスカをして『クロロ軍曹』と卑下ひげされてはいても、それを毅然きぜんとして跳ねのけるだけの折り目正しいたたずまいがあった。


 二人はウルスラ大将とミサトの前まで来て敬礼をした。ウルスラが満足げにおおきく頷くと、ミサトが一歩前に進み出て、クルーたちへふたりを紹介しはじめた。

 

「彼はセラ・マーズ、パイロット、亜沙・歴あすな・ゆき

「彼女は、セラ・ジュピター、パイロット、クララ・ゼーゼマン」

「みんな、わたしたちともども、よろしくお願いするわね」

 クルーたちがすこしざわついた。


「女みたいな名前だ」


 クルーのなかの誰かが|囁《》いたのが聞こえた。アスナ・ユキの耳に届かなかったはずはないくらいの声だった。

 ヤマトはアスナ・ユキの反応を観察した。が、彼は上あごを心持ち上にあげたままの姿勢をぴくりとも崩そうともしなかった。それくらいのことでは動じないのか、言われ慣れていて反応する気にもならないということか……。


「やぁ、きみがヤマト・タケルくんだね」

 ふいに壇上からユウキが声をかけてきた。ヤマトはあえてことばを口にせず、ユウキに目をむけるだけにとどめた。まずはそのアプローチの真意を探りたかった。

 そして、この男を信じた自分の直感がただしいかったか、どうかも……。


「きみと一緒に戦えることを、心から光栄におもうよ。ユウキと呼んでくれないか」

「わたしも、光栄です。クララと呼んでください」

 クララが胸に手をあて、自分をアピールしながら言ってきた。

 この女もわれわれのことを知っている。知っていながら、この態度で臨んできている。


 ヤマトは彼らの前にすたすたと進み出て言った。

「はじめまして、ユウキとクララ、きみたちを歓迎するよ」

 ヤマトは壇上のユウキのほうへ右手を伸ばした。一瞬、ユウキは下からの握手の催促に面食らったようだったが、「ヤマト君、壇上から失礼するよ」とエクスキューズしてから、手を伸ばして握手をしてきた。おなじようにクララとも握手すると、ヤマトはユウキにむかって言った。

「さて、ユウキ、きみの役目はなんだと思うかい?」

 ユウキはなんの躊躇ちゅうちょもせずに即答した。

「わたしの役目は、きみの『盾』になることだと思っている……」


 まるで二人で示し合わせていたかのような間合い。

 その顔には余裕の表情すら感じられて、すこし腹立たしいほどだった。

 ヤマトは口元をゆるめて言った。


「上出来だ」


 手元に届いたのは、ありがたいことに、大きく最高に強固な盾……。

 だが、まだ信用ならない……。

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