第181話 アスカ、ジュピターを落としにいく
「もらったぁ!」
アスカは背後からセラ・ジュピターに組みついて羽交い締めにした。と同時に一気に超流動斥力波の出力を引きあげる。ウイングの右側だけに推進力が加わり、錐揉み状態がさらに回転を増した。アスカはセラ・ジュピターを掴む腕に力をいれた。せっかく掴まえたセラ・ジュピターを遠心力ごときで振りほどかれてたまるか、という執念もこめてみせた。
「あんたは、あたしと一緒に落ちるの!」
アスカが弐号機の頭を地上のほうにむけた。二体の機体は重なりあったまま、下方にむけて急降下をはじめる。
「聞こえてないでしょうけどね、クララ。あんたにはここで消えてもらう。タケルからもお墨付きをもらってる!」
直滑降するような形で二体が落ちていく。
「悪いわね。恨みはないけど、彼の命令なの。ま、あんたのこと嫌いだしね」
アスカはクララに聞こえているはずないのに、もう一度念をおすように叫んだ。
だが、この声はヤマトとレイ、そして室内でモニタリングしている十三には、ローカル回線で聞こえているはずだ。どこかの瞬間で、だれかが自分の行為をとめてくれるはずだという、期待をこめての叫びだった。ヤマトから命を絶てと厳命されているのだ。自分からその任務の遂行をとめたくなかった。だが、それを遂行しきることにはもちろん
クララは生理的にどうしても好きになれない相手だったが、死に値するほど嫌な女ではない。お互い優秀であったため、パイロットとしてあらゆるシーンでトップ争いをするライバルのひとりであったのは確かだった。
だが、ヤマトの指示には、一遍の迷いがなかった。自分には理解できそうもなかったが、それほどまでに『四解文書』の内容を知られることは危険なことなのだ。
だが、本当にそうなのだろうか?
アスカはふと、リョウマと最期の束の間の時を思いだした。
あの時、兄リョウマは本当に嬉しそうに笑い、幸せいっぱいそうだった。
だが、あれが発狂した人間の所作とはとうてい思えない。すべてを知ったならば発狂するのではなかったのか?。
ぼわっとアスカの頭の中に疑義が生じた。
思ってはならないことなのに、ヤマトの言うことを、全て信用していいものかという迷いが隙をうんだ。
突然、機体の回転が止まった。
錐揉み状態で二体で地面に激突するまで、あと十数秒という時点で姿勢が安定する。アスカの機体に組みつかれたまま、セラ・ジュピターが上昇に転じた。
「なんなの?」
セラ・ジュピターのウイング部分にカメラをむけると、ジュピターはウイングの左側からだけ超流動斥力波を出力しているのがわかった。お互いが片側だけを出力することで、二体で一対の正常な出力を実現した形になっている。
「さすがね、クララ。パニックにならず、よく回避方法を思いついたわね」
アスカはジュピターを掴む弐号機の腕にさらに力をこめた。
「なら、もうすこし、嫌な思いをしてもらうわよ」
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