第180話 まさか、三つ巴になるとは
「まさか、三つ巴になるとは……」
ヤマトはレイからの報告を受けて、おもわず呟いた。自分たち以外の襲撃者を予想していなかったわけではなかったが、すでに先んじられているとは思っていなかった。不覚をとったとしか言いようがない。
こうなると、セラ・マーズと悠長に戦っている場合ではない。
「レイ、いまからそちらにむかう」
「ユウキは落としたの?」
「いや、それは後回しだ」
そういうとヤマトはセラ・マーズのいる方向に背をむけ、壱号機の超流動斥力波の出力をあげた。壱号機の機体が一気にスピードをあげて飛び出す。
追ってくるだろうか?。
今避けるべきは、謎の略奪者と国連軍のデミリアンを同時に相手にすることだ。本当ならセラ・マーズを落としてからのほうが与しやすいが、もうそんな悠長なことを言っていられなくなった。
ふと、ヤマトの脳裏に、略奪者が
「レイ、そのぺらぺらした『素体』はなにをやっている?」
「わからない。倉庫に乗っている大型の金庫の前で、手に持った端末を操作している」
「それは『チャンバー』と呼ばれる保管庫だ。簡単にアクセスできる代物じゃない」
「簡単だと思う。だってその『チャンバー』っておおきく開いて、中の『ドラゴンズ・ボール』見えてるもの」
レイのことばにあわてて、ヤマトは倉庫内の映像を注視した。だが見えているカメラの映像では『チャンバー』にはなんの変異もない。
「どういうことだ、レイ。なんにも起きていないぞ。チャンバーは開いていないし、ディスポーザブルの『素体』もなにも見当たらない」
「たぶん、その映像はダミー映像。こっちを見て」
レイの機体の頭についた映像が、突然右の壁側に投写されると、まさにレイの言う通りの映像が目の前に現れた。
格納庫の奥にのチャンバーはまったくの無防備状態だった。開口部をおおきくあらわにし、中に格納されているものが丸見えになっている。その中心部にある『ドラゴンズ・ボール』は円形状の専用容器の上にあった。円の真ん中に置かれた一個を取り囲むように、外周に均等に六個並んでいる。透明のカバーに覆われているだけで、手を伸ばすだけで、だれでも手に取れそうにみえた。
「レイ、先にその『ドラゴンズ・ボール』を奪い取れないか?」
「タケル、もうやってる。このカバーを外すのはこのジドムでも無理。爆破したほうがいい?」
「レイ、その装置を破壊するのはまずい」
「どうして?。本来はその予定だったでしょ」
「いや……。あぁ。だけど予定変更だ。チャンバーは爆破しない」
「じゃあ、わたしはどうやってデータを奪えばいい?」
「インターネット!」
レイとの会話に突然、アスカがわってはいってきた。錐揉み状態がとまらない機体に手を焼いているはずだが、自分だけ蚊帳の外というのがどうにも気に入らなかったらしい。
「四世紀前に使われていた『インターネット』ならデータを安全に送れる。そうでしょ、タケル」
「あぁ、アスカ。その通りだ。あの遺棄されたレガシーネットワークにはAIの監視がいき届かない」
「ここにいるペラペラのヤツらは、そうやって盗むつもりだったの?」
そうレイに疑問をぶつけられて、そこにいる強盗の『ドラゴンズ・ボール』強奪作戦の全容が、ヤマトのなかで徐々に
「あぁ。やつらは中身のデータだけを『インターネット』を使って転送するつもりだ」
「だったら、こっちもそうしなさいよ!」
アスカが当然とも言える提案を、雄叫びじみた声で叫んできた。自分の機体の制御がうまくいかないことの、苛だちまじりの叫びだ。
「そうしたいところだね。だが、どうやる?」
「ちょっと待って、タケル。そんな古びたネットワークにデータを転送できたとして、そのあとはどうなるの?」
レイが珍しく感情を表にだして、不満げに訊いてきた。ヤマトはあたらしい作戦に移行した時点で、自分が輸送機内にいる意味が薄れてきたことへの不満だとすぐに理解した。
「うまく転送できれば、それでいい。レイ」
「どうして?」
「この遺棄されたサーバーは分断されて、地域別のごく狭い範囲内でのみでしかやりとりができない。そのどこかに落とし込めれば、簡単には他人が見つけることはできない。だから通称『アビス・サーバー』と呼ばれている」
「じゃあ、私たちもアクセスできなくなるの?」
「自分たちだけにわかる識別信号をデータ内に潜り込ませれば、あとで追うことが可能だ」
「じゃあ、タケル。レイとこ行ってとっとと一緒にデータを盗んできなさいよ!」
ふたりの会話を聞いていたアスカが、ヤマトのご丁寧な解説をぶった切った。
「しかし、『アビス・サイト』は……」
ヤマトはアスカの提言に躊躇したが、アスカには迷いがなかった。
「十三!!。あんた、聞いてンでしょ。すぐにその『アビス・サーバー』とかいうヤツ、探し出して、用意してちょうだい」
ふいに右壁にあるモニタ映像が切り替わって沖田十三の映像が現れた。その背後にリアル・バーチャリティ装置にのって操縦しているアスカの上半身が見えている。ゴーグルをかけたアスカの口元が動くのが見えた。と、同時に声がインカムを通して聞こえてきた。
「あたしは、あの生意気なおんなを痛めつけてるから、そっちは頼むわよ!!」
ヤマトは十三が映っている映像のほうに目をむけた。
「十三、どうする?」
「エル様。子供の頃、訓練用にお使いになっていた国連軍の隠しサーバーを使いましょう。それならエル様も馴れてらっしゃるでしょうし」
「あ……あぁ……。十三、頼む」
即座にあまりに明快な回答を用意してきた十三の姿勢に、ヤマトは心のなかでむっとした。本人はおそらく意識はしていないのだろうが、そのサーバーのことは簡単に、口の
『十三……。そこには『グレーブヤード・サイト』がある……。あまりにも危険な場所だぞ」
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