第164話 タケル。国連軍を襲うって、本気なの?

「ちょっとぉ、タケル。国連軍を襲うって、本気ぃ!」


 龍・アスカが顔を輝かせながら、ヤマト・タケルの顔をのぞき込むようにして言った。その笑顔はあきらかにたくらみに満ち、心なしかすこし顔が上気してみえる。

「あぁ、もちろん本気だ、アスカ」

 ヤマトはかぶりつきそうな勢いをあしらうように事務的に答えたが、アスカの高揚感は静まりそうもなかった。

「おもしろいじゃない。あたし嫌いじゃないよ、そーいうの」

「ブライトさんが責任を問われるかもしれない。アスカは心、痛まない?」

 アスカの弾むような声をたしなめるように、横からレイが静かな声で言った。レイはまるで言動をとがめるように、アスカの目を正面から見据えている。


 ヤマト・レイ、アスカの三人は、ヤマトの自室で鼎談ていだんしていた。三人で話をするのには、ヤマトの部屋はいくぶん手狭ではあったが、いまはここで我慢するしかなかった。階下のラウンジルームはタムラレイコの襲撃をうけ、いまだに壊滅状態のままであったし、何よりもアスカが嫌がった。緊急事態であったとはいえ、あのラウンジでは人間の頭をお手玉させられ、兄の形をまとった化け物に襲われたのだ。たとえどんなに修復されたとしても、以前と同様にふるまえないことは理解できた。レイは瞑想室の利用を提案したが、それも前室で一人吹き飛んだあとの始末がまだ不充分なため却下された。


 冷や水を浴びせられた形になって、アスカはすこし口ごもった。

「ブライト?。うん、まぁー、できれば迷惑はかけたくないけど……」

「春日博士もまきこまれるわ」

「うっさいわね。だったら、レイ、あんたはどうなのよ。あんたはこの計画の片棒かつぐの、かつがないの?」

 アスカが立ちあがってレイに詰めよった。レイはいきりたつアスカを不思議そうに見あげた。

「私の使命はタケルの命とタケルの意思を守ること。そのために誰に迷惑をかけてもしかたがないって思ってる」

 アスカはそれを聞くなり、突然脱力してドンと腰をおとした。

「は、あんたに喧嘩ふっかけたあたしが『ボカ』だったわ。はなから迷いなんてないもんね」

「喧嘩を?。アスカ、あなた、私と喧嘩をしていたの?」

 アスカは「もういい」という表情で、手のひらをはためかせた。

「で、なんで、国連軍を襲うのよ」

「近々、コックピット内のブラックボックスに記録されていたコックピット・データレコーダーがスイスの国連本部に移送される……リョウマのね」

 ヤマトはわざと「リョウマ」を強調した。それを聞いてアスカが面くらった表情になったが、それは一瞬だけだった。

「なによ、そんなこと?。規定通りでしょ」

「あぁ、そのリョウマのコックピット・データレコーダーを強奪する」

「なんで兄の?」

「知ってると思うけど、そのブラックボックスには『球形』のストレージに、七つのデータが個別に記録されて収納されている」

「知ってるわよ。視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚の五感と、むかし『第六感』って言われてた『霊覚』、無意識の思考や本能的な習性の『想覚』。全部で七つの『七感』のデータでしょ」

「あぁ、そうだ。だが、問題はこの七つの『球形』のストレージのデータは、国連本部にある専用解析装置にかけることで、そのパイロットが経験したことを、ほぼ100%追体験できる」

 アスカがたくらみに満ちた目つきになった。

「なるほどね。そいつを使えば兄と同じように、『四解文書』を身をもって知ることができるってことぉ……」

「さすが、アスカ。察しがいい」

「おもしろくないわね。兄さんの命を好き勝手にもてあそばれるっていうのは……」


 その時、部屋の入り口付近から声がした。


「では、わたしにもお手伝いさせてください」

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