第139話 タケル、あたしを縛って!
アスカはヤマトから腕を受けとると、すぐに失った左腕のつけ根にあてがった。
右腕を左腕にくっつけるというのに、あたり前の違和感があったが、贅沢を言っている状況ではなかったので、口をつぐんだままだった。左肩のつけ根に右腕のつけ根をすりつけると、肩の傷痕から青い菌糸状のようなものが、ゆらゆらと立ち昇りはじめた。
セラ・プルートゥが腕を再建した時と同じような反応だった。
だが、その時と同じようなスピードは望めなかった。青い菌糸はあらたな代替の腕に接触しても糸を一本つむいだ程度の効果しかなかった。先ほどプルートゥが見せた劇的なまでの腕の再建スピードを期待すると、深いため息しかでない。
「んもう、なによ、この遅さは!」
アスカがたまらず、ヒステリックに声をあげた。
「他の個体の腕が移殖されているのよ、簡単にはいくわけないでしょ。でも、くっつこうとしているわ」
「メイ、あたし、この腕がくっつくまで、ここでじっと待ってないとだめなの?」
モニタのむこうでリンが思案している姿が目にはいった。
「そうねぇーー。本当はすぐにでもこちらに戻ってきてほしいのよ。でも腕が固定してくれないことには動かすわけには……」
「『万布』を使ってみちゃどうだい」
突然、モニタ画面にアルがししゃりでてきた。
「万布を?。どうやんのよ?」
「タケル、すまねーな、ちょっと手伝ってやってくれや」
アルからいきなり指令されて、ヤマトが戸惑ったような顔をした。
「え、どうすんのさ」
「腕のつけ根に『万布』をもっていって『帯』と命令するのさ」
ヤマトは言われたまま、自分の腰に装備されていた『万布』をひきぬくと、セラ・ヴィーナスの肩口にあてがった。すると、ヤマトの思念を読みとった万布が、パラパラと帯状にバラけたかと思うと、そのままヴィーナスの肩関接を固定するようにくるくると巻きついていく。たちまちセラ・ヴィーナスの新しい腕は三角巾で吊るされたようになり、そのつけ根の接合部分がはなれないように固定されていた。
「ちょっとお、すごく便利じゃない!」
春日リンが思わず感嘆の声をあげたのを聞いて、アルが得意げな顔になった。
「どうだい。アスカ、腕のつけ根の感触は?」
「アル、私の体じゃないから感触とかわからないわよ……。まー、でも、激しく動かなければ、腕がはずれるように感じないわね。ただ、もうちょっと強さがほしいかなる」
アスカはそう言いながら、マンゲツの目の前に自分の万布をさしだした。
「タケル、あたしを縛って!」
そう言われて、タケルはうんざりとした顔でため息をついた。
「誤解をまねくような言い方だね」
そう言いながら、タケルがセラ・ヴィーナスの肩口に万布をあて、さらに重ねて包帯を巻きはじめた。くるくると自走しながら、万布の包帯が的確に患部を固定していく。アスカは黙ったままそれを見ていたが、顔から火がでる思いでいた。
あたし、なんてこと言ったのよ。
ほら、心臟がバクバクとしている。
あたしのヴァイタルをモニタニングしている司令部のクルーにはバレバレなのに。
持にミライ。
春日リン……、メイだったら、あたしの変化を察しても口をつぐんでいるだろう。もしかしたら、あとでそっと耳打ちしてくるくらいはあるかもしれない。
でも、ミライはクソみたいに優等生だ。こちらのヴァイタルの変化を、なんのてらいもなく口にする。なんと言って取り繕おうかしら?。
アスカは瞬時にいくつかの答えを頭に巡らせたが、冷静にやりすごすことにした。
「こちらに誘導パルスを送って。基地に帰投するわ」
「了解。あと二分後に上空から、誘導パルスレーザーで索引します」
ミライの事務的な答えが聞こえてきた。
「えっ、なによ。二分もかかるの?。もうちょっと早くなんないの?」
アスカは抗議の声をあげた。彼女は一分一秒でもこの場から立ち去りたかった。さすがにこの状能で戦いを続行するのは不可能だし、ヤマトの足手まといにもなりたくない。
「アスカ少尉、もうすこしだけ、待機です」
「なんでよ!」
「あなたの動悸が30秒前から急に激しくなっているからです」
アスカはそのことばに、カーッと顔が熱くなるのを感じた。よりにもよってここでばらすなんて。
「だ、大丈夫よ!」
「いえ、もう一分追加です。今、顔の血流量がいきなり24%も上昇しました」
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