第26話 そのためにわたしたち、月から呼ばれたんでしょ

 リョウマはレイに指示を受けて、すぐにスコープから亜獣を狙ってみた。まずいことに地面に仰向けに転んでいる亜獣は、ビルの陰に隠れてほとんど見えなかった。

「だめだ、こちらの軸線上ににない」

 一刻も争う事態だとわかっていたが、予想外の場所にターゲットが転がってしまっては、打つ手がなかった。こちらがすぐに移動しなければ、亜獣を撃ち抜くことは困難だった。

「アスカ、レイ、なんとかもっと広いところへ亜獣を移動させてくれ」

「兄さん、ボカぁ。できるわけないでしょ」

「リョウマ、無茶言わないで」

 予想していたとおり、ふたりから一斉に非難の声が浴びせられた。

「リョウマ、場所は変えてくれ」

 ブライト司令の映像が目の前に現れ、リョウマに指示をとばしてきた。平静を装っている口調だったが、早くなんとかしろ、という圧力が言外にこもっているのは間違いなかった。リョウマは地図データに光点が点滅しているのを確認した。ここから数百メートル離れた場所にライフルを設置するのに適したビルがあることを示していた。

「レイ、アスカ、少し時間を稼げるか」

「ちょっとぉ、それ、マジで言ってる?」

 アスカが当然のように不平の声をあげた。が、レイは冷静に状況の把握に努めていた。

「エドさん、亜獣が消失するまでどれくらいある」

「あと5分20秒ほどしか時間がない」

「了解。わたしが殺る」

 レイが迷わず決意をしたのを聞いて、アスカもあわててそれに追随した。

「殺るって……、できるのか?」

「そのためにわたしたち、月から呼ばれたんでしょ」


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 亜獣は仰向けになったままで、起き上がれずにいた。甲虫に似た形状の亜獣は、驚いたことにその弱点も甲虫にそっくりだった。一度腹を上にしてひっくり返ると容易に元に戻れない。

 レイは躊躇無く、亜獣の目に薙刀なぎなたの刃を突き刺した。

 身体中に目がびっしりと埋め尽くされていて、どれが本当の目なのかわからなかったが、すべての生物は目が弱点であるのだから間違いない。 

 要は全部突けばいいだけだ。

 レイの行動の意図を瞬時に悟ったアスカも、追随するように槍を亜獣の目に突き立てた。

青い血しぶきがあたりのビルに飛び散った。すぐに槍をひきぬくと、さらにその横の目に槍を突き立てた。亜獣がひくい鳴き声らしきものをあげながら、足元でのたうち回る。

 ふたりは亜獣にたちあがる隙を与えない間隔で、矢継ぎ早に亜獣の目に刃をつきたてまくっていた。リョウマが銃をセットする数分を確保するためとはいえ、ある意味地味な攻撃ではあった。

「んもう、どんだけ目があるのよ」

 アスカのぼやきが早くも聞こえてくる。

「たぶん、千にすこし欠けるくらい。2秒で一個潰したとして、1000秒かかる」

「ちょっとぉ、あんた『ボカ』ぁ、それじゃあ、亜獣に逃げられちゃうじゃない」

「その前にリョウマがかならず間に合わせてくれる」

 モニタのむこうのアスカが驚いたような顔をした。

「へl、あんたって、兄貴のこと信じてくれてるんだ」

「えぇ。当然」

「あ、そう……。ありがとう……」

 アスカの唐突な感謝のことばに、レイはとまどった。

「なにが?」

「な、なんでもないわよ」

 アスカが今度は先ほどのことばを否定してきた。レイにはどうにも理解ができない。

 レイは流れでる青い血液や緑の体液で隠れてしまい、亜獣の目を視認するのがむずかしくなってきた、と感じていた。

「レイ、顔にはもう潰す目ないわよ」

 アスカも同意見のようだった。レイは司令室のモニタのほうへ目をやった。

「エド、どうすればいい?」

「参ったな。それだけ損傷させても、死なないのか」

「足や胴体にある目も潰したほうがいい?」

「いや、あぁ、そうだな」

 レイは嘆息した。


 まだまだこの単純作業が続きそうだったが、さすがに飽き飽きとしていた。


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 リョウマはふたりが亜獣にむけて、槍と薙刀なぎなたの刃を打ち下ろしている姿を見ながら、ライフルをセットしていた。ここなら倒れている亜獣の姿がしっかりと捉えられた。たとえ起ち上がられたとしても死角は少ない。

 突然、かん高い音がして警告音が鳴った。亜獣があちらの世界に戻るまで、あと一分しかないことを警告していた。

 つまりは一発で仕留めるしかない、ということを意味だ。

「エドさん、この亜獣の弱点は?。どこを狙えばいい?」

「リョウマ君、ヤツの頭蓋骨を粉砕してくれ」

「レイとアスカの武器では、あの頭を砕くのは難しそうだ」

「了解」

 リョウマはすぐさま、亜獣の頭にロックオンしようと照準を定めようとして、軸線をレイとアスカの機体がふさいでいることに気づいた。

「レイ、アスカ、正面を開けてくれ」

 レイのセラ・サターンがすぐに持っている薙刀の刃を、力の限り亜獣のからだに突き立てると身体を横にずらした。

 亜獣の頭部が見えた。が、その頭は青い血や緑の体液にまみれて、どこがどうなっているのかわからない。

『これでまだ死んでないのか』

 リョウマはすぐに頭部らしき部位にむけて照準を合わせた。


「ロックオン」

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