第2話「自己紹介と慣れ合い」

「自己紹介を始めます。」

先生の声の声と共にお辞儀をする生徒達、そして、出席番号1番「天方 髻(あまかた けい)」が呼ばれる。


「では出席番号1番からどうぞ!」


黒板の前まで移動して自己紹介を始める。

天方は思わずカラカラの喉で唾を飲む。

そして緊張のせいか両腕を真っ直ぐ下に伸ばして汗っ気のある手のひらをグー、顔は強ばり声は弱々しくも強引に震えていた。


「あ、天方、け、け、髻ですっ!」

き、緊張し過ぎて声が上手く出ないっ!


天方の緊張しきった姿に先生は、息子でも見るような眼をして「落ち着いて」と優しく投げ掛ける。


天方は一旦リラックスしようとふーっと深く深呼吸をして肩、腕、手、指の力を抜いて仕切り直した。


「天方 髻です。僕の好きな科目は……えーと……特に無いです!」

み、ミスったー!やばいやばいやばいやばい……


それでもやはり緊張していた。


周囲に小さい笑いが起こる、そして先生はちょっと周りを見渡して「無いんかいっ!」とツッコミを入れると、笑いの声の大きさに拍車がかかり天方も、つられてクスッと吹き出した。


それからは緊張も適度にほぐれ、天方は順調に自己紹介を進める


「あの、好きな食べ物は基本何でも、不味く無ければ、食べれます、そして、好きな動物は、あまり分かりません」

やばい……全部曖昧な紹介になってる……


順調と言えども緊張はしていた。


そして、自己紹介が終わると班机になり、色々な担当を決める。


「君の自己紹介案外面白かったよ」

一人の女子がビー玉を転がす様なカランとした声で天方に声を掛けた。


「あ、ありがとうございます。」

あ、声を掛けてくれた……緊張する。


天方は初めて声を掛けられた故か、丁寧語で緊張しつつ、少ない口数で会話を終わらせてしまう。


すると女子は自己紹介を始めた。

「んー、私の事は知っているよね、花笠 葵(はなささ あおい)よ、好きな事は、ドッチボール。」


「花笠さん……よ、よろしくお願いします。」

な、なんかごめんなさい……


また会話が終了してしまった。


それでも花笠は苦笑いしつつも会話を続ける。

「宜しくねー、あ、そういえば、実はだけど、さっき自分の自己紹介を自分で聞いてて、ちょっとクドい気がしたんだ」


「ど、どうしてですか?」


「思わなかった?なら良いけど……」


「思わなかったですけど……思う要素ありましたっけ……」



「だって二回も自己紹介だよ。人によっては聴いたよ!二回もしなくて良し!て言うと思ったの。でも、私的には1回目って、結構忘れる人もスルーする人もいるかな……って思った……でもなーって思ってたら色々葛藤して、そしたら、ならもっかいするかっ!てなったの……」


「は、はい……」

この人、クドいっていうより、めんどくさい……


「今、めんどくさいって、思ったよね?」


「え!?い、いや、思ってないですよ。」


「思ってる、私は心が読めるから、そんな事、気にしなくて良いですよ。」


「え、嘘だ!」


「てか、自己紹介の時もずっと聴いてたんだけどなぁ」


「え!?な、なんて、思ってたんですか!」


「緊張して自己紹介が上手く出来ないー的な事やその他諸々」


「す、凄い……」


「まぁ、取り敢えずこういう状況の時は二度目の自己紹介って結構有効なのよ。少なくとも他の子よりインパクトあるじゃん、仲良くなるのグーンと早くなると思うの。こうやって言葉のキャッチボールも、出来たし。」


「はい、確かに……僕は天方 髻です。」


「知ってるから……二回も言わないでくれる?」


「え?」

ひどい……


「相手から話しかけてきた時は誰っ?て尋ねられたり、自己紹介を要求された時以外は自己紹介しない方が宜しいと私は思った。」


「それもどうして?」


なぜ話し掛けてる途中名前を尋ねなかったと思う?


「知ってるから。」


「そういう事あと、心読めるは嘘です。」


「え!?」

この人何何何何!?


花笠は、前髪をかき上げて、おでこを見せた後前髪を下ろし、後ろ髪を結んだ。


天方は花笠の額に色気を感じ思わず唾を飲んだ


花笠はニヤリと笑い意味深的な表情で柔らかくお礼をいう


「この言葉のキャッチボール、あなただから続いたと私は思ったから……ありがとう」


「い、いえいえ……」

天方は瞬きをしたかと思えば段々早くなり頻度も増していく


な、なんかドキドキしてきた!凄いよ!凄いよこの人なんか凄いよ!


「じゃ、じゃあねー……」


「う、うん、じゃあね」

下を向いて半反射的におうむ返しをする天方


「私は台拭き係します!」

天方から聞けば突飛おしのない事をいう花笠


天方は言葉の意味が分からず少し花笠を見ると、花笠は机の担当用紙を見ながら喋っている


その刹那天方は全身をデカい布団で隠したくなるほどの猛烈な恥ずかしさに顔を赤らめる


「……」

やばいよ僕……めっちゃ恥ずかしいよ僕!


「じゃあ天方くんは?」


「お盆運びます。」

うああああああ






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