【乾師寿一】4

 

 なのに。

 『ビビ』は、ある日突然、なんの前触れもなく急に、消えた。

『もう連絡しないで。さようなら。』

 いきなり送られてきたメール。慌てて電話したけれど、その番号が繋がることは、二度となかった。

 理由、とか。目的、とか。そういうのはもう、どうでもよかった。ただ、この唯一の繋がりを消してほしくなかった。どんなに薄く消えてしまいそうなものでも、この繋がりを消してほしくなかった。『ビビ』はちゃんとここにいる、と、その事実が、証拠が、欲しかった。胸が痛くて、涙が止まらなくて、こんなに大きな体が、消えてしまいそうで。

 二度目の学校祭。八木美々との関係を壊したくだらないジンクスに、今度は自らすがった。中庭にあった青い造花を、火に投げ入れた。

(ビビに会いたい。)

 願いはそれだけ。

(ビビに。)

 そのためなら、なんだって出来た。

(あぁ。)

 この手が掴めるのは、たった一本の、クモの糸。

(それを、ビビが最も望んでいないということは、知っていた、けれど。)

 俺と『ビビ』の唯一で確かな共通点。

 八木美々を、頼った。


 八木美々の連絡先は、すぐにわかった。

 春と違って緊張は無く、むしろ『ビビ』との繋がりがそこしか無い現状、祈るような気持ちが大きかった。連絡先を教えてくれた友人が事前に連絡をしてくれたのだろう、美々は驚くことなく、すぐに電話を受けてくれた。

『久しぶりだね、寿一。』

 あぁ、やっぱりビビとは違う。落胆のような、安堵のようなものが、胸にズトンと落ちた。

「久しぶり、ビビ。」

『急にどうしたの?びっくりしちゃった。』

「はは、びっくりしたのはこっちだよ。」

『え?』

 どうやって聞き出そうか。どうやったら知りたいことを確実に知れるだろうか。何度も、幾つも考えて、その通りに会話を進める。

「俺、携帯壊しちゃってさ。データ消えちゃって。ビビの番号代わってるの、知らなかったんだ。」

『あー、だからかー。連絡先送れなかったから、生意気な奴だなぁって思ってたんだよー、ははは。』

 嘘だ。俺はわざと、美々に新しい連絡先を知らせなかった。

「それでさぁ、ダメ元みたいな感じで、前の番号にかけたんだよね。そしたら違う人がでたんだけど、さ。」

 唾を飲み込んで、なるべく何の気ない感じで、言葉を放つ。

「誰?」

 お願いだ。教えてくれ。

 目を閉じた。沈黙はきっと、一秒ほどの短いものだったけれど、そのときは一時間のように長く感じた。

『あー、あはははは!』

 美々は、笑った。

『弟だよ!弟の、敏和!』

 そして、とてもあっさりと、すんなりと、『ビビ』の正体を知らされた。

(八木、敏和。)

 俺はその存在と、きっと会うことはないだろう。

 そう、思っていたんだ。

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