【松葉緑】3
そんな悲劇の青年、松葉緑が、『中山大町』に引っ越してきたのは、思春期真っ盛りな十四歳の時。
成長期は松葉青年の手足をぐんぐんと伸ばし、整ったパーツはそのバランスを崩さぬよう慎重に、大人のものへと変わっていった。
中山大は、そんな美しい青年が暮らすには勿体ない、今まで暮らしてきたなかでもトップに躍り出るど田舎だった。汽車を降りた瞬間ため息を吐いてしまうほどだ。それでも親には「自然が豊かでエエとこやな。」と無理やり笑って、新しい同級生にも嫌味ないよう接した。
その年の、夏。松葉青年は、友人(仮)に誘われ(というか強引に呼び出され)興味など微塵もない、女子バレーの試合を見に行っていた。なんでも、とびっきりの美人が出るのだ、と友人たち(仮)が盛り上がっていた。ソレハソレハタノシミデスネー、と思いながら、せやかてバレーやってる女なんか美人にも限界があるやろ、という気持ちで、町体育館の狭いバレーコートを見下ろして、
八木美々に、出会った。
バレーに詳しくない俺にもわかるくらい、彼女のプレーは華麗だった。蝶のように舞って、蜂のように刺すとは正にこのことだ、と思った。彼女はため息が出るくらいに美しかった。けれど俺は、まったくと言っていいくらい、彼女の顔を見ていなかった。まとう空気。その姿勢。動き。彼女を取り囲む、言葉にできない何かが、息を飲むくらい、視線を離せないくらい、ただひたすらに美しかった。自分が『美しい』と呼ばれることが、恥ずかしくなってしまうくらいに。
俺は一瞬で、八木美々に惹かれた。
試合終了のホイッスルが鳴ると同時に、八木美々目当ての男たちを押しのけ、一目散で駆け寄った。彼女に見惚れてすっかり飲み忘れていた未開封のスポーツドリンクを差し出して、
「凄い、綺麗で見惚れたわ!」
と言ったら、彼女は目をまん丸にしたあと、俺の頭をぐしゃぐしゃに撫でて、
「可愛いねアンタ、気に入った!」
と、豪快に笑った。
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