【松葉緑】2


 物心がついたときから、父親と二人、色んな町を転々と暮らしてきた。数えるのをやめるくらい引っ越しをして、同じ数だけさよならをした。短いところは一か月も居なかったし、長くても年単位で暮らすことはほとんどなかった。

 だからもう、小学校低学年くらいで俺は、『友達』を作ることをやめた。必要なのは、授業の手助けをしてくれる人と、二人一組を作るとき一緒に組んでくれる人と、休み時間に話をしてくれる人。それは誰だってよかった。どんな奴だってすぐにさよならするのだ。唯一何か条件をつけるとしたら『俺と相性の悪いひとであること』だ。出来るだけ人を好きになりたくなかった。

 両親から貰った容姿は、とても整ったものだった。でも俺はこれが『恵まれた容姿だ』とは感じなかった。感じたくなかった。整った容姿は、それだけで好意を寄せ、同じ数だけ反感を寄せた。ショーウィンドウに置かれた新しい人形のよう。手に取って触れてもいないのに、まだ俺はなにもしていないのに、他からの評価は一目で決められた。俺の苦手な『元気で明るく楽しそうなやつ』を引き寄せ、俺にも『元気で明るく楽しそうなやつ』であることを押し付けられた。そうしないと『見た目がいいから調子に乗ってるやつ』というレッテルを、勝手に貼られた。


 以上を踏まえ、松葉緑という青年は、『ニコニコ笑って嫌みのない明るいイケメン』を演じ、広く浅い関係を保ち、出来るだけ『本当は関わりたくもない、クラスでも目立つグループ』に溶け込み、去年住んでいた町のことは、もう忘れてしまったような生活を送っていたのだ。

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