【乾師寿一】6


 学祭最終日。半分くらいの生徒は片づけに追われ、残りの半分のうちの、また更に半分はなにかをしているふりをしながら、生徒会が隠した造花を探し回った。俺もそのうちの一人だ。

 段ボールを捨てに行くと言い、そのまま中庭に行く。去年はここで、青い花を見付けた。

(ビビ。)

 縋るような気持ちで火に投げ入れた造花。こんなジンクスに必死になるくらい、俺は。

(今も大した、変わっていない。)

 造花を見付けたとして、今年はどうすると言うんだ。

「……!」

 生徒会が去り、すっかりいつも通りに戻った中庭に、人影。

「やっぱり会いましたね、先輩。」

 ひらひらと手を振る、敏和の友人。その手には、オレンジの造花。

「惜しかったなぁ、今俺この花見付けたところやねん。あとちょっと早かったらなぁ。」

「敏和に、渡すつもりか。」

「べっつにぃ、このジンクスが恋愛オンリーとは限らんのやから、そういう怖い顔は止めて欲しいわぁ。」

「じゃあ、どうする気?」

 綺麗な顔は、にやりと笑って、走り出す。

(あ、ヤバい。)

 慌てて追いかけるけれど、たくさんの人が行き交う廊下ではすぐに見失ってしまった。

(敏和の、ところ。)

 多分、中庭に居ないのだから、教室で後片付けをしているのだろう。全力で四階まで駆け上がって、敏和と同じTシャツを着た生徒を捕まえる。

「敏和!八木敏和、どこ!?」

「えっ、あっ、と、八木はたしか、木材燃やしに、グランドだと……。」

「グランド……。」

 一度大きく深呼吸をして、階段を今度は下る。同じクラスの奴に「サボるなよ!」と捕まったけれど、振り払ってグランドへ向かう。

(敏和、嫌だ、受け取るな。)

 彼の言う通り、恋愛だけとは限らない。でも、どうしても、彼の花だけは受け取ってほしくなかった。

 ヤキモチじゃない。全くないと言ったら嘘になるけれど、違う、嫌な予感がする。

 造花を受け取ったあとの、敏和の姿が、何故だかチラつくんだ。

(だって。)

 そうだ、さっき、中庭で。

(松葉の目が、赤かった。)

「敏和!」

 グランドの、巨大な焚火の前。

 松葉の隣に、敏和。

(あぁ、ほら。)

 振り返った顔は想像通り。

 泣いていた。

「先輩……!」

 駆け寄ってきた敏和が、胸に飛び込んで震える。

「松葉が、」

 その手には、オレンジの花。

「松葉が転校するんだって……!」

 早く、大人になりたい。

 その言葉は、誰のものとも言えずに、火の中へと消えていった。


 学校祭が終わって、二週間。

 「中間テストから逃げさせてもらうわ。」と笑って、松葉は電車で片道六時間ぶん離れた遠い町へと、引っ越していった。

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