【八木敏和】11

「八木、たまには俺と昼食べへん?」

 昼休み。いつものようにコンビニの袋を持って、滅多に人が来ない自習室前の廊下で昼食を取ろうと思っていたら、前の席の松葉に捕まった。松葉が僕とお昼を食べようと目論んでいたのは、初めて話したあとからなんとなく感じていた。けど、いつも教室で一番騒がしい奴らに囲まれて学食へ向かう姿を見ていたから、それに巻き込まれたら堪らない、と意識的に避けていたのだ。しかし、先に話しかけられてしまったら、断りようがない。

「松葉ー、学食はー?」

「ごめんなぁ、俺今日八木と食べるねん。」

「お、やっとナンパ成功したんだー?」

 松葉はひらひらと友人たちに手を振る。

「僕、パンだから、学食なら付き合えない。」

「へへーん、そう言うんやないかな思うて、俺もパン買ってきてるんよ。」

 カバンから『でかでかメロンパン』と『こてこてメンチカツパン』を取り出して笑う。栄養バランスを考えて一汁一菜を頑なに守っています、というような容姿と反して、ジャンクフードを好んで食べるタイプのようだ。

「八木はいつもどこで食べてるん?」

「……廊下。」

「どこの?どこの廊下?そこで食べようや。」

 恐らく、ここでいつもの場所に連れて行けば、これからは毎回そこにやって来るだろう。一ヶ月かけてようやく見つけた安息の地を、松葉が率いる賑やかな人たちに知られるのは避けたかった。

「決まった場所では、食べてないから。」

 だから、僕は逆に、松葉を利用してやろうと思った。

「中庭に、行ってみたい。」

 ひとりでは、とても近づけなかったあの場所に、松葉が居たら、許されるよな気がして。

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