【八木敏和】8
(それだけ、だ。)
本当に、それだけの理由で、僕は今この校舎に居る。バレーが少し有名という以外は、なんの特徴も無い普通高校だ。僕にはあまりにも、場違いだった。
(ここまで、来たのだから。)
せめて、トシカズという人物がどんな容姿をしているのか、それだけでも確認しよう。そう思ったけれど、僕が知り得ている情報は、とてもくだらないことばかりで、肝心なことは『今は三年生』ということと、『トシカズ』という名前しか聞いていなかった。
部活動とか、身体的な特徴とか、そういうことがわかっていたら、良かったのだけれど。
真新しい学ランの袖を、ぎゅっと掴む。これから絶対伸びるんだから、と大きいサイズのを用意されて、僕の手は、いつでも袖にひょっこり隠れてしまうのだ。
見つめていた中庭の桜から、人影が現れる。木の影にでも居たのだろうか、その人は四階からでもわかるくらい、身長が高かった。もさもさな黒髪には鳥が住んでいそうで、のそのそと動くから、昔絵本で見た『心優しい巨人』を思い出して、少し笑ってしまう。
「、」
「!」
まさか、こんな距離で気付かれるはずはない、のに、その人がフッと、こっちを見上げた。それと同時にチャイムが鳴って、逃げるように窓から離れた。
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