【八木敏和】7

『もう連絡しないで。さようなら。』

 トシカズには、それだけメールを送って、返事が来るより先に、携帯をトイレに流した。ガタガタと音をたてながら、泡と共に消えていった『繋がり』は、あっけなく、その数秒で、僕とトシカズを『見ず知らずの二人』へと戻していった。あっけないものだな、という一言以外、感じることはなかった。二十一時に携帯を探してしまう癖だけは、なかなか消えなかったけれど。

 トシカズはどう思っているのだろう。今、何をしているのだろう。それが気にならなかったと言えば嘘になる。かと言って、いつもいつも考えてしまうほどには思っていなかった。きっと、トシカズとのことが『中学三年生』という時期でなかったのなら、僕らの関係は、この物語は、これで終わりという、中途半端な形になっていたのだろう。

「八木(ヤギ)は、高校、どこを受けるつもりなんだ?」

 担任から、もう数え切れないほど聞いてきたその言葉。僕はその日、いつもの職員室で、何故だかぼんやり、トシカズのことを思い出していた。あの声が、今どんな言葉を、どんな調子で話しているのか、自分の進路よりも気になって。

「僕は、」

 そのトシカズが居る場所を、僕は知っていた、から。

「姉と同じ高校に、行きたいです。」

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