【八木敏和】6

『あれ、ビビ、風邪引いた?』

 夏休みに入って、トシカズとの時間が少しだけ増えた。いつもよりたくさん話したせいか、喉の調子が悪い日が続いた。声が掠れるようになって、喉になにか、違和感があって。

「敏和、美々が帰ってきてから明るくなったわね。」

「あらそうなの?もぉ、素直に言いなさいよ、可愛い弟ね!」

「そんなんじゃ、」

 ある日。何気ない、家族との会話の最中、その違和感はいきなり正体を現した。

「あれ、敏和声低くない?」

 触れた喉に、ぽっこりとした、感触。

「まぁ!ようやく敏和も声変わりね!」

 母が放った、言葉。

「これでもう、美々と間違える心配がないわぁ!」

 僕の、『ビビ』としての時間は、唐突に幕を下ろした。

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