雪道
ヘアクリップ
きっとこんなこともある
パソコンを起動し、最近お気に入りのオンラインゲームを始める。ヘッドホンから流れる音楽はフルオーケストラで、イラストレーションも美しく、軸となるストーリーは情報量が多く細部までこだわりが見られる、にも関わらずプレイヤーの好奇心を掻き立てる程度に自由度のある秀作だ。
ホーム画面からメッセージを開く。
「こんにちは○○さん。今月のイベントは、アテナ復刻戦です。メイン報酬のSSR武器アイギスを装備して、ボス戦に望みましょう。」
もうこの槍は持ってるし、今回は走らなくていいかな。
二つ目のメッセージも開く。
「フレンドの
ああ、またこいつか。
「プレゼントが来ています」
ため息をつきながら文字をクリックする。
「SSR盾アイギス」
この人はボランティア体質なのか、やれプレゼントだ装備だといろいろなものを送ってくれるのだが、大抵のものは私も持っているため素材に回したりして有効利用させて頂いている。最初の方はこちらも何かしらお返しをしていたが彼曰く、いらないから、あげているだけ、ということなので、もう気にしないことにした。
ピロンっとBGMを遮ってメールの通知音がきた。
母からだった。
文面はいつもの通り、元気にしているか、三食きちんと食べているかというどうでもいい内容から、まだ結婚しないのか、早く孫の顔が見たいというなんとも赤裸々なものまで様々だった。さらにはご丁寧に最後に正月には帰省するようにという一文が添えられている。
正直行きたくない。
どうせ里帰りしたところでなんのメリットもない。交通費としてお金を無駄に使うだけだろう。それに年末には恒例イベントがあり加えて待ち望んでいたキャラの実装もある。
正直実家はゲームがしづらい雰囲気なのだ。
しかし、昨年は仮病を使い余計な心配をされ、散々な目にあった。もうここは腹をくくって帰省するしかないだろう。
ため息を付いて薄暗い部屋を見渡した。
悲しいことに女一人暮らしのワンルームには実家に帰らない理由など転がっていないようだった。
新幹線を降りてローカル線に乗り換える。
日本海から冷たい潮風が吹く。駅まで父が迎えに来ていた。
挨拶をほどほどにして車に乗り、山道を進む。
どちらも誰かさんと違ってあまり喋る方ではないため、車内は無言だ。
除雪車の跡が残る道路をチェーンの付いたタイヤがチャリチャリ、ミシミシと進んでいく。
ふいにあのゲームの通知音がなった。しかし私はスマホにはダウンロードしていないし、ノートパソコンはキャリーケースの中で手元にはない。
後部座席の隣を見ると、いつ買ったのだろうか、父のスマホに通知がきている。
右斜め前の運転手は挙動不審だ
「なんだ、お父さんもこのゲームやってたのね。」
そう言って通知を覗き見た。
「こんにちは 大山猛 さん。今年も正月イベントJYOYAを開催します。ギルドメンバーやフレンドと協力し…」
「…。」
「…。」
相変わらずタイヤだけが騒がしく、なんとなく耳障りだった。
雪道 ヘアクリップ @tamaniyomu
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