第44話 新たなメンバー

「よろしくお願いしますねっ、黒陽っ」


 ──その言葉と、耳元で囁かれたその感覚が、僕を硬直させる。


「──どうしました?」


 ──やばい。

 体が──重い──。


「もしかして──」


 彼女は体勢を低く取り、僕の顔を上目遣いで覗き込んで、少し口角を上げながら言う。


「──怖いんですかぁ?」


(どうにかしないと……)


「いっ、いやぁあ。少し放心しちゃったなぁあ。こちらこそ、よろしく」


(なんだこれ)

 ──すんごい変な感じになってしまった。

 けど、動けただけましだろうか。


 僕はそのまま右手を差し出す。


「はいっ、黒陽隊長っ」


 彼女は僕の右手を握り返した。


(──あれ、なんだろうこの感覚)

(どこか暖かくて、懐かしい)


 ──優しい手だ。


 なぜか僕は──そう感じた。



「僕の事は気軽にアルナ君とかでいいよ。僕も、志暮さんって呼ぶね」


 ──彼女の手を握ってから、なぜか恐怖はなくなっていた。


「──うん。わかったよ、アルナ君っ」


 志暮さんは、僕にそう微笑んだ。


 ──僕はなんとも言えない感覚に陥った。


 彼女のその笑顔を見て、鼓動が高まったんだ。

 なぜだろう。この優しく色気ある雰囲気の奥底から漂ってくる殺意に、僕は心を奪われてしまった。


「では、アルナ君には大事な話をしよう」


 そこに、上田支部長が話をし始めた。


「なぜ彼女が単騎で金剛に攻め入る事ができたかだ」


 ──その話か、気になっていた。

 けど──


「それは彼女の闇が──」


 ──今ならなぜか分かる。

 彼女の闇は──



 ──透明だ。

「──透明だからだ」


「──えっ!?」


 上田支部長の答えに、六斗君が体全体で驚く。

 ──けど、僕は驚かなかった。

 なんだかわからないけど──分かったんだ。


「──そう、彼女の闇は透明だ。闇の圧や大きさを変える事で、光を屈折させる事ができるんだ」

「それって……」

「そう、その力は、自分の体をも隠す事ができる」

「まじすか……」


 六斗君が普通の人の驚き方をする。


「アルナ君は、そんなに驚いていないようだけど、知っていたのかい?」


 上田支部長は、鋭い質問をしてくる。


「いえ。ただ、単騎で潜入できるとなるとそういった力かと思ったので」


 とりあえずそう答えた。

 すると。


「──アルナ……君……」


 志暮さんが僕の方を見て、何かを言いかけたので。


「どうしたん?」


 と聞くが。


「いや、なんでもない……」


 そう言って彼女は顔をそらした。


「あ、それでこっちの田耕君なんだけど」

 そこで上田支部長は思い出したかのように六斗君の話を始める。


「田耕君も、優秀な人材だ」

「そうなんですか?」

「あぁ、治癒の才能に開花して、今ではまぁまぁ優秀な治癒使いなんだ」

「はっ、はい! みんなが傷を負ったら、僕が治癒します!」

「へぇー、助かるな」

「彼は、戦闘スキルも持っているから戦いにある程度加勢する事もできる。臨機応変に指示してくれたまえ」

「はい」


 ──回復できる戦闘員か、これはやりようによってはとても優秀になりそうだな。



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