第43話 しばらくの団欒

 ──僕はとうとう流輝さんの階級をも超えてしまった。

 というか、支部長クラスの人達も追い越して急激にめっちゃ偉くなってしまった。


 そして──


「おっアルナ──」

 業助がすれ違いざま僕を呼びかけるが。


「じゃっじゃなくて、黒陽隊長!」

 そう呼び直した。


 ──そう、僕はこの階級に上がって少隊の隊長になったんだ。

 というより、この階級は普通中隊とか大隊とかを指揮するんだろうけど、流石に無理があるだろうって事でこうなった。

 今までの閃霧隊のみんなと、業助と式、あともう二人を含めて黒陽隊だ。なんか恥ずかしいな。


「業助らしくもないな、アルナ君でいいよね?」

 一緒に歩いてた式が言う。


「うん、僕もその方がやりやすい」

「ははっ、そうだな。アルナ」


 それで僕らはまた任務時に会おうと別れる。

 僕は見送る。


「業助、ちょっとトイレ寄らせて」

「おう、俺も行こ」


 するとそう言って、式が真っ先に女子トイレに向かうので。


「式っ、そっちは女子トイレ──」


 声をかける、が。


「ん? 何だ? 何か問題があるのか?」

「問題って……」


 式は普通の顔で聞いてくる。


「この先に何かあるのか?」

「何かって、──え?」


 僕は気づいて業助の顔を覗いた。


「そういや、式って傍から見たらどう見ても男だな、その格好だし、一人称『僕』だし」

「なっ何だ! 僕は普通に女だぞ!」

「マジ?」

「マジだ!」


 僕は式の顔を見た。

 ──確かに、その恥ずかしがり方は女の子だな。


「もういいだろ! 入るぞ!」

「あ、うん」


 式はトイレに入っていった。

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 ──僕は、呼ばれていた支部長室に着いた。


「黒陽君……」


 上田支部長が席で物々しい雰囲気を醸し出しながら待っていた。

 そして──


「やはり君は凄いよ!」


 そう言って僕の両手を掴み、輝かしい目つきで言ってくる。


「まさか竜を我が物にしてしまうとは!」

「ハハハ……」


 僕は苦笑いで返す。

 そのまま支部長がその話にそれようとしたが。


「あっ、あの……」


 僕と同じくらいの年の少年が支部長の気を戻す。


「おっと、すまない。今日はこの話をするために呼んだんじゃなかった」


 そう言って支部長は立ち上がり、その少年の横に来て言う。


「今日から君の黒陽隊に入る──」

田耕たがやし 六斗りくと少佐です! 黒陽君──お久しぶりですね!」


「えーっと」

「誰だっけ?」


 僕は率直に聞く。

 会った事あったっけ。覚えてない。


「ごっ、ごめんなさい! 僕の事は覚えてないですよね……」

「う、うん」

「前の昇級式で君の隣にいたんですけど──」


 あー、そう言えばそんなのが居たような。

 もう一人の志暮のインパクトがありすぎて覚えてないのも当然だ。

 あぁ、あの目を思い出すと震えが──


「あぁ、あの時の。これからよろしく」

「よろしくお願いします!」


(──っていうかあの時会っただけで久しぶりって言うのか?)


 そんな事を考えていると。


「もう一人の隊員ももうすぐ来るはず──」


 コン コン


「おっと、来たようだ。いいぞ、入れ」


 ──どんな人だろうか、怖くないと良いけど──


「失礼します」


 ──僕は、その声を聞いて感じた。


 ──あの恐怖を。


「こっちがもう一人、君の隊に入る──」


 ──あぁ、聞かなくても分かる。

 この怖さは──


時訪ときずれ 志暮しぐれ少暗王です」


 ──やっぱりだ。

 そして彼女は僕に微笑みながら近づいて、耳元で囁く。


「よろしくお願いしますねっ、黒陽っ」

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