第35話 何故に三頭か

「こいつ! どんだけ闇を纏って!」


 闇のガードを破壊したが、さらに闇が。


 三頭狼ケルベロスは気を立てて、反撃してくる。


 爽也さんが、それをどうにかはねのける。


 しかし。


 三頭狼ケルベロスの頭の一体が大きく遠吠えをし始めた。


 音が大きい。闇の力で振動を大きくしているのか。けど、まだ大丈夫だ。

 と、思ったが。


 頭のもう一体がさらに遠吠えを。

 それが、ただの遠吠えならまだいいのだが。


 その頭二体の遠吠えが不協和音を生み出す。


 ──耳が壊れる。


 僕らは耳を塞ぐ。

 塞げばどうにか大丈夫──だが。


 追い打ちをかけるように頭の三体目がさらに遠吠えをする。


 その激しく大きな不協和音は、耳を塞いでても響いてくる。

 耳を通り越して、直接頭に響いてくるんだ。


 ──歯が立たない。


 このままじゃ耳どころか、頭も壊れる。


 激しい音に耐えられない。


 そんなとき、ふと、怒りが湧いてきて、僕は三頭狼ケルベロスに殺意を向けたんだ。


 ──すると。


 一瞬頭の一つがひるんだ。


 これは、僕の殺意に反応してるのか?

 よし、なら。



 僕は頭三つ全てに、大きな殺意を向ける。


 ──遠吠えが一瞬止んだ。


 今だ!


 ザシュウウゥッ



 ──僕は三頭狼ケルベロスの右側の頭を斬り落とした。



「他の二つも!」



 ──そう思ったが。


「グォォオオオオオァァアアア」


 その大きな唸り声と同時に、僕らは衝撃で吹き飛ばされる。


 どうにか立ち上がって三頭狼ケルベロス──いや、もう二頭狼か、を見る。


 それはたいそう怒っている様子だった。

 当たり前だ、自分の頭を一本斬られたんだから。


「アルナ君っ、さっきのは?」

「木賊さん!」


 木賊さんも立ち上がって聞いてくる。


三頭狼ケルベロスに意識を向けてみたら、一瞬ひるみました!」

「もう一回できます?」

「やってみます!」


 他のみんなも立ち上がる。


 僕は残りの頭二つに殺意を向けた。



 ──しかし、頭二つ少し首を振るだけ。

 効いていない。


 そして二頭狼ケルベロスは僕のもとまで近づいて来る。


「アルナ君!」

「私達が──くあっ!」


 爽也さん、流輝さんが一瞬防ぐが。

 すぐに吹き飛ばされた。


 ゆっくり、一歩一歩、近づいてくる。


 ──どうする。


 一歩一歩、怒りを踏みしめるように。


 何か考えろ。

 このままじゃみんなやられる!


 考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ──



 ──あ。


 一つ思いついた。

 それはこうだ。



 頭が二つあるなら──

 ──別々の意識をそれぞれに向けたら。


「ふっ」


 ──僕は少し笑ってしまった。

 なんのために頭が二つあるんだろうか。


 そして頭二つに別々の感情をぶつける。


「グゥ ウガァ アァ」


 二頭狼ケルベロスはもがきだした。


 もういい、怒りでも悲しみでも苦しみでも。

 憎悪、殺意、軽蔑、嫉妬。

 なんでもいいから適当にぶつけてやる!


 二頭狼ケルベロスはさらに唸りながらもがき出す。


「ケルベロス──お前の敗因は──」


 僕は月光剣サテライトを大きく振り上げる。


「頭が複数あった事だ!!」


 ──そして、切り裂いた。

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