第33話 目が覚める

 ──僕は混濁した意識の中で、昔の記憶を思い出していた。


 木漏れ日が眩しい。


 子どもたちのはしゃぎ声が聞こえる。


 後ろを振り向くと、豊かな一本の木がそそり立っている。

 その横に小さな川が流れ、池に繋がっている。


 その綺麗な庭の周りは、コンクリートの壁。

 天井のコンクリートの隙間から、日光が差し込んでいる。


 その団欒とした空間の端には、奇妙なカプセルが並んでいる。


 そこに一人の白衣を着た男が。


 ──父さん。


「どうしたんだい? アルナ」


 父さんは話かけてくる。


「あのね、あのね」


 子供がそれに返事をする。



 ──いや。


 ──これは僕か?


 そして僕はこう言った。


「あの子、僕がこれを刺したら、動かなくなったんだ! すごいでしょ!」


 僕は木の方を指差す。


 ──そこには、一人の子供が刺されて死んでいる姿があった。


 幼き僕の手元には──月光剣サテライト




 ──それは、血にまみれていた。


 そして父さんはこう言う。



「よくやったな、アルナ。君は将来優秀だ!」


「うん! 僕、お父さんの優秀な子供になるよ!」


 僕は答えた。


 ──子どもたちの声が聞こえた。


 子供たちの方を向くと、みんなとてもとても楽しそうにしている。


 ──その手には、闇器。




 子供たちは──



 ──とても楽しそうに殺し合っていた。




「………ナ………きて…………ルナ……」


 そこに、聞き慣れた声が頭にうっすらと響く。


「アル…君…………起き………しっ……」


 それは段々と鮮明に。


「アルナ君………しっかり……」





 ──はっ。


「アルナ君っ!」


 僕は目を覚ました。

 みんな少し傷を負っている。そして僕を囲んでいる。


「流輝さん…… ここは……?」


「戦場だよ。今金剛と東黄が本格的に攻めて来てる」


「──僕は──何を?」


「覚えて無いの?」


「──はい」


 流輝さんが驚きの表情だ。

 僕が何かしたんだろうか。


「──覚えてないなら──いいや。それより、立てる?」


 僕が何かしたのか凄い気になったけど、とりあえず立ちあがる。


「とりあえず、治療所まで行くよ」


 そう言われて、僕は連れて行かれた。


 治療所につくと。

 治癒の闇使いの人に、みんなも傷を癒やしてもらう。


「今東黄が第二大隊を進軍させてきていて、金剛もどんどん攻め進んできてる。はっきり言って危ない状況だよ」

「本当ですか!」

「うん」


 ──これはやばい状況だな。


「東黄の第一大隊はどれくらい残っているんですか?」


 第一が多く残っている状況で、第二まで来たら本当に銀海が危うい。


 ──と思ったけど。


「第一は……その……」

 

 何故か流輝さんが口ごもっている。


「どうしたんですか?」


 ──まさか、全く倒せていないのか?


「いや……言いづらいんだけどね」


 そうだとしたら相当やばい。

 そうなのかと思ったが。


「全滅したんだよね──」


 ──へ?


 全滅したのか。

 ならまだどうにかなりそうか?


「──というか……」


 流輝さんが何かを言おうとする。

 何かそうなってはいけなかったとか?

 何だ?



「──アルナ君が全部倒しちゃったんだ」



 ──ん?


 ──僕?


「え、僕がですか?」

「──うん。やっぱり覚えてないみたいだね──」


 流輝さんがそう言うと説明を付け足す。


「アルナ君が急に豹変したように強くなって、第一大隊を殲滅したんだ」

「そんな──」

「覚えて無いんだよね──」


 流輝さんがとても悲しそうに言う。

 少し怖がってもいるようにも見える。


「おっ、覚えてないならいいよ! よし! みんな傷を癒やした事だし、加勢しにいこうか」



 ──急にそんな空元気みたいなのを出して、言う流輝さんが、僕は心配だった。

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