第26話 蒼き少女の苦痛

「君、アルナ君が守った娘だよねぇ。名前なんて言うんだっけ」


「私は、閃霧 流輝だ」


「流輝ちゃんかー、俺と戦おうぜぇ!」


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 ──私は、強くなんてない。


 ──心の中では、ずっとそう思っている。


 小さい時から、軍での訓練を少しづづ受けていた。

 みんなから期待の眼差しを向けられてきた。


 けど────応えられない。



 今の私は中将だ。何故か。

 さほど強くも無いから。


 本当だったら、私みたいなケースはもっと上まで行くそうだ。


 ──現に今も、アルナ君が渡り合っていた相手に、引けを取っている。



「どうしたよ! お嬢ちゃん! その程度か?」


「くぅっ」


「面白く硬い防御だが、俺におされてるぜ?」



 ──三人も失ってるのに……何が足りないの……


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 お父さんとお母さんは、優秀な兵士だった。

 凄く優しくて、幸せだったけど。


 私を守る為に死んだ。


 実戦に出て、しばらくたった頃。調子が良かったんだ。


 ──油断してた。


 両親は、私をかばった。

 私の目の前で両親は殺された。

 すぐさまお兄ちゃんが私を連れて逃げた。


 そしてお兄ちゃんは、復讐しに行った。


 見事、お兄ちゃんは敵の小隊数隊を殲滅。


 ──しかし。

 ──そこにもとのお兄ちゃんの姿は無かった。


 自らの闇に飲み込まれ、暴走してしまった。


 私はお兄ちゃんを救おうとしたけど、私を襲ってきた。



 ──お兄ちゃんは、私が殺した。


 お兄ちゃんに殺されそうになって、先に殺めてしまった。


 ──私は、誰も守れない。

 守られることしかできない。

 それどころか、守る相手すら殺めてしまっている。


 そんな悲しい事があったのにも関わらず、私はまだ弱い。

 弱すぎる。


 そんな弱い自分をどんどん嫌いになって、自責の念に駆られまくって。



「何っ! 押し返されたっ!」


「がぁああああああ」


 私は自分がどんどん嫌いになっていく、その嫌いさが、かろうじて私を勝たせてくれてきた。

 今もそう。


 やっとの思いで、相手に傷を負わせた。


 相手が逃げていく。



 ──なんで、どうして。



 ──こんなに弱いの。



 いつも、見えない所で、みんなに隠れて、私は泣いている。


 今日も。


 少しの間泣いてたら。


「流輝さんっ!」

「アルナ君っ……」


 見られてしまった。

 もう、上官としての威厳は保てないな。


「どうしたんですか?」

「どうもしないの。 かっこ悪いよね……私。」


「そんな事無いです」

「どうして? 泣いてたんだよ?」

「泣いて当然ですよ」


「戦場なんですから」

 アルナ君が慰めてくれている。

 でも。


「戦場だけど、誰も失ってもないしっ、敵を殺めたわけでもないのに泣いてるんだよ?」

「それでもです。悲しくなることなんて絶対ありますよ」

「悲しくても、戦場で泣くのはかっこ悪いよ……」


 そう、私はみんなを引っ張っていく立場だから、泣いてちゃいけないんだ。


「泣いたっていいじゃないですか」

「え?」

「僕だって、泣きたいときに泣くと思いますし、それに流輝さんはただ泣いてるだけじゃないんだと思います」


「きっとみんなを守りたくて泣いてるんですよね? だったら、それはいい涙じゃないですか。みんなの為に流す涙に、悪い事なんてありませんよ」


「そう……かな……」

「そうです」


「私……だれも守れない……」

「僕は守られてます」


「家族も……救えなかった」

「その家族が救ったのが流輝さんですよ」


「でも……強くなくてっ」

「強くなくてもいいと思います。 弱くても誰かを守れたら、それでいい」


「私は……」

「好きなだけ泣いて良いですよ、僕が聞いてあげますから」


 ──私は、言いたい事を全部ぶちまけた。


 その全てにアルナ君は答えてくれた。

 今までの苦しみを、解いてくれるように。


 ぶちまけた後、しばらく泣いた。


 泣きやんで、私はこうしなきゃいけないなって思って、満面の笑みでアルナ君に感謝を伝えた。






「ありがとうっ アルナ君っ」

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