第20話 昇級

 僕らは各自単騎で人故を倒した功績を称えられ、昇級することになった。

 本部で階級任命式が行われるので、それに出るんだ。

 ついでに僕は、軍で兵になった時の分も行われるらしい。


 そして、次の任務が言い渡されるそうだ。


 ──僕らは、軍の運搬車に乗り込んだ。


 車が発車する。


 車に小さい窓がある。少しばかりの埃がついている。僕はそこからふと外を見渡してみた。


 ──いい景色だ。


 単純に心からそう思えるような景色だった。

 東黄は、どこが塵臭かった。けれど銀海ここはそんなものは微塵も感じない。


 ところどころにいい感じに建てられてあるビルに、少しばかりの奇抜な建物、特に目立つのはあの三角錐の形をしたやつだろうか。そして、それを囲っている家々。さらにそれを大きく広大に包み込む透き通った空。とても紛争が起きているとは思えない空間だ。


「きれいでしょ」

 流輝さんが、外を眺めていた僕に話しかけた。


「はい、凄くいい景色ですね──」

銀海ここはそういう景観にも気を配ってるんだ」


 高速道を通る車の音も、とても心地よく思えた。



「見えて来ましたね」

 しばらく外を眺めていると、木賊さんが言い出した。


「本部ですよ」


 それは説明がしにくい建物だった。

 ただ、一つ当てはまるたとえがあるとするなら、「近未来の城」と呼ぶべきだろうか。



 ──本部に到着した。


 集会場に多くの兵たちが集まる。

 僕は列に並んだ。


 すべての兵が並び終えた後、階級任命式が始まる。


「これより、銀海軍所属兵の階級の任命式を始める。」


 豪華に装飾が施された台上で、銀海軍を統べるあるじ銀末ぎんまつ 師得しとく銀海軍事長が、開式の言葉を終える。


 最初に行われるのは、正式な訓練を経て、正式に軍に入る兵たちの紹介だ。

 その次に僕のような特例で軍に入った者の紹介がなされる。


「特例入軍者の紹介と、階級任命を始める。」


 僕の左右に、一人づつ特例入軍者がいる。

 僕含めて三人いるようだ。


田耕たがやし 六斗りくと

「はっ!」


「其方の銀海軍への入軍を認め、少尉の階級に任命する」

「はっ!」


 ──僕の番だ。


「黒陽 亜月光」

「はっ!」


「其方の銀海軍への入軍を認める。そして単騎での人故の撃墜という貢献を称え、其方を大尉の階級に任命する」

「はっ!」


 結構緊張していたが、すぐに終わって、少し力が抜けた。


「あれが噂の白使いか」

「入って早々大尉だと!」


 周りのざわめきが聞こえる。


時訪ときずれ 志暮しぐれ

「はっ」


 女の子だ、僕より少し年下だろうか。


「其方の銀海軍への入軍を認める。」


 どんな感じで入ることになったんだろうか……。


「そして、敵対地域である金剛の首領の暗殺及び金剛軍の兵の殲滅という偉大な功績を称え、少暗王の階級に任命する」


 ────!?


「はっ!」


 ──何を言ってるんだ。金剛の首領の暗殺?

 なんで特例の兵が?

 わけがわからず途方にくれている僕。というか兵全員に、軍事長から説明が下る。


「銀海の兵たちよ、聞くのだ」

「公にすると混乱を招く故、控えていたが、この場であらためさせてもらう」


「彼女は、軍に入って間もないにも関わらず、金剛軍への侵入に単騎で成功し、そのまま金剛軍の首領の暗殺まで成し遂げた」


 集会場に大きくざわめきが響いた。


「金剛は、まだ小さい地域ではあったが、彼女の功績により、我々銀海軍の戦況は大きく変化したのだ。これからも、彼女は大きな戦力となりうるだろう」


 僕は、そっと彼女の顔を横から覗いてみた。


 ──目があった。

 ──その瞬間、恐怖で硬直した。


 恐怖したら普通は震えるのだろうが、そうではなかった。

 震えを通り越して、動けなくなった。


 彼女の視線は、「死」そのものだった。


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