第9話 人故

「ぐあああっ」

「ぐっ」


 一体の人故ひとなしが銀海の兵たちを蹴散らしている。


「闇値、約─50000─ですね。下級兵50人分ですよ」

 木賊さんが取り出した測定器で測った。


「闇値って測れるんですね」

 僕が聞くと。

「アルナ君も見られなかった?」

 流輝さんが聞いてきた。

「そういえばなんか訓練中に見られたような……」


「アルナ君も貰ってるんじゃないか?」

 爽也さんが確認する。


「あ、これか」


 僕はベルトに備わっていた測定器を取り出し、測ってみた。


 闇値─60348─


「60000になってますよ」

「ですね、闇値は状況によって変化しますからね」

 木賊さんが答えて、さらに。


「更に増えそうですね」

 と、付け足す。


 僕は流輝さんを測定してみる。


 闇値─15280─


「高いでしょ」

「下級兵15人分ですね!」

「それでも私の中だとまだ低い方なんだけどね」

「最高の時はどれくらいなんです?」

 僕が聞くと。


「ざっと58万くらい?」

「58万っ!?」


 流輝さんの答えに僕が驚くと。


「フフっ、冗談だよっ」

 流輝さんははにかみながら答えた。

 少し遊ばれたが、これはこれで……。


「近づいて来たな……」

 と爽也さんが言うと。


「閃霧隊、戦闘体勢をとります」

 流輝さんがみんなに命令する。


「あれ、佐部さんは?」

 流輝さんがみんなに聞く。


「佐部さんならあそこで廃棄物ガーベッジと戯れてますよ」

 木賊さんが答えたので、指さした方を向くと。


「もっと来なヨぉ!そやぁ!……もう死んじゃうノ?次のコは……いた!」


 それは見事なまでの暴れっぷりだった。


「佐部さーん、おーい!」

 大声で呼びかける流輝さん。


「あっ!流輝さんっ。いっ、今行きます!」

 佐部さんは周りにいた廃棄物ガーベッジたちを蹴散らし終えて、こっちに向かってくる。


「すっごい暴れようだな」

 爽也さんが感心しながら言った。

「すっ、すみません。つい……」


「まぁ、これで全員揃ったね」

 流輝さんが話を切り替える。


「んじゃあ戦闘体勢を取ります。前衛は爽也君と佐部さん。後衛は私と木賊君。アルナ君は中衛でお願いね」


「「了解です!」」


「アルナ君、中衛の動きはわかる?」

「はい、訓練中に少しは教わりました」

「よし、じゃあみんな行くよ!」

「「はい!」」

 流輝さんの掛け声で全員が大きく返事をする。そして人故ひとなしに向かう。


「おらぁ!」

 先制を仕掛けたのは爽也さん。

 爽也さんの重く、鋭い攻撃を人故ひとなしが闇で防ぎ、ズドッと鈍い音がした。


 続いて佐部さんが攻撃を仕掛ける

「そいっ!」


 しかし、また闇で防がれた。


「アルナ君、行け!」

 爽也さんから合図が来た。


 僕ははいと答えながら、人故ひとなしに斬りかかる。


 ズッと最初鈍い音が鳴り、防がれる。だが。


 ジュゥゥゥ

 僕の小さく小刻みな闇が、少しづつ人故ひとなしの闇を削っているようだ。


 シュッと人故ひとなしがもう片方の腕で攻撃を仕掛けてくる。僕は咄嗟に避ける。


「今の、行けそうですね」

 木賊さんがそう言うと。


「みんな、アルナ君の攻撃に集中させよう!」

「「はい!」」


「これでどうです!」

 木賊さんが持っていたよく分からない武器で、闇を放った。

 どうやら銃のようだ。


「グお゛お゛お゛お゛お゛」

 人故ひとなしが唸りを上げる。


「喰らえっ」

 爽也さんが人故ひとなしの右腕に斬りかかる。


「こっちは私が止めるよ!」

 流輝さんが左腕を盾状の闇で押さえつけた。


「やれ!アルナ君!」

 爽也さんの掛け声で僕は飛び上がり、上から人故ひとなしを斬りかかる。


 ズッと闇で押さえられたが。

「これで倒れろぉ」


 ズジュゥゥ

 僕の闇が人故ひとなしの闇を削り。


 ズバァアア

 と僕は人故ひとなしを切り裂いた。


 人故ひとなしは動きを止め、鈍い音を立てて倒れた。


「倒した……?」

 僕が放心していると。


「やったな!」

「やりましたね!」

「中々やるじゃないですか」


 みんなが僕を取り囲む。


「僕、上手く戦えましたかね……?」

「だいぶ良かったぞ!」

 爽也さんが僕を褒める。


「初戦闘にしては、中々ですね」

「すごいです!」

 木賊さんと佐部さんも褒めてくれた。


「よく戦えたと思うよっ」

 流輝さんが微笑みながら言ってくれた。


「さて、ひと悶着ついたとこで、帰りたいけど、勤務時間まで戦いますかっ」

 流輝さんがそう促すと。

「「はいっ!」」

 全員が快く返事をする。


 この隊に入って、僕は結構楽しいのかもしれない。


 ああ……


 この人たちと戦えれば……

 楽しそうだ……


 僕の口元は笑っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る