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私が生まれたのは、彼女と暮らしていた街から電車で二時間半ほど揺られた先の田舎町だった。
どんな田舎かって、他人の家の事情を隣近所どころか会ったこともない人までが知っている、そんな田舎だ。
私はそこから出たくて仕方がなかった。
だから遠い大学を選んだ。家から通えなくはない、けれど通うにはちょっと厳しい、あたりが、県外に出ることを許さなかった親とあの町を出たかった私の妥協点だった。
家は、古くて広い。
土地も馬鹿みたいに広くて、年に一度は庭師に入ってもらわないといけないような、立派な庭もあった。
彼女をどこともしれない場所に埋葬するのは嫌だったけれど、私たちが一緒に暮らした家には庭がない。
だから、彼女に出会う前に私が暮らしていた家の庭に、埋めようと思った。
彼女と出会ってから暮らした十八年。
それと同じ長さを、原因もよくわからない閉塞感に喘ぎながら、私が生きた場所。
駅につく時間をタクシー会社に伝え、車を回してもらう。都市部の駅と違って、常にタクシーが待っているような駅ではなかった。
家まで歩くことも考えたが、十八年、ほとんど帰ってこなかった娘が明らかに骨壷入りと思われる箱を抱えて歩いていたら、どんな噂が立つかわからない。
電車の中で、スマホの中の彼女の写真や動画をひとつずつ眺めていると、また、ツンと鼻の奥が痛くなった。
人目をはばからず泣ける性格だったら、どんなによかっただろう。
ツンとするたびになんでもないフリをして窓の外に目をやり、またスマホを眺め、また窓の外に目をやった。
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