翌日、私はたった一人で彼女を送った。

 桐の箱に移された彼女の周りに、香りのいい花をたくさん飾ってやる。一緒に、大好きだったおもちゃといつも食べていたおやつも入れた。

 別れを済ませて彼女を納めた小さな棺が炉の中に消えていくまで、じっと見つめた。

 待合室にいる間、ぼんやりと彼女のことを思い出していた。

 あの、愛しい子。

 小さな声でニィニィと鳴いていた、あの日。

 見なかったことに出来ず、とにかく獣医に連れていった。

 スポイトでミルクを与え、ウェットティッシュでおしりを拭いてやった。

 そのときには「この子と一緒に暮らそう」と決め、名前もつけた。

 動けるようになるとけっこうやんちゃで、あちこちにぴょんぴょん飛びつくため、部屋の模様替えを余儀なくされた。

 助かったのは、トイレの場所をすぐ覚えてくれたことだ。

 お留守番も得意で、私が仕事に出かけている間、ひとりで遊んだり眠ったりして過ごしているようだった。

 そうして私が帰ってくると、玄関先で迎えてくれた。

 夏は近くに寄りたがらなかったが、冬は暖を取るためにベッドに潜り込んできた。

 その気まぐれさが、いかにも猫という生き物らしくて、気に入っていた。

 美しく光る黒い猫だった。長いしっぽの先はカギのようになっていた。

 カギしっぽの黒猫は縁起がいいのよ、と教えてくれたのは、誰だっただろう。

 そういえば、あの子を拾ったその日、獣医の髪にはまだ白いものがなかったように思う…それが、十八年という年月か。


 祖父を火葬したときにはずいぶんと時間がかかった覚えがあるが、彼女はものの一時間ほどで骨と灰になった。

 呼ばれて、待合室を出ていくと、彼女を納めていた棺も中に入れた花もおもちゃもおやつも、彼女も、もうその姿を留めていなかった。

 近くに寄ると、まだ熱い。

 長い箸で、小さな骨をひとつずつ拾い上げて、小さな壺に入れた。細かな骨と灰は、最後、火葬場の職員がすべて、壺の中に入れてくれた。

 壺は桐箱に入れられ、綺麗な紅色の風呂敷に包み、私はそれを抱いて電車に乗った。

 行き先は、彼女と暮らした家ではない。

 

 もう、涙は出なかった。

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