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家へ戻り、ケージから出してやると、彼女はよたよたと頼りない足取りで私の膝にすがってきた。
私がそっと抱き上げてやると、そのまま、膝の上で丸くなった。
柔らかな身体だ。小さくて、とても弱々しく見える。
そっと、耳の下からあごへ撫でてやると、ゴロゴロと喉を鳴らした。
獣医の声が、耳の奥に聞こえる。
「十八年目でしょう」
その、言葉。
「よく生きたと言ってやりなさい」
その、言葉。
私が一人暮らしを始めてほどなく、マンションの前に捨てられていた子だった。汚いダンボール箱の中で、ニィニィと小さな声で鳴いていた。
はじめこそ衰弱していて大変だったが、それ以後は病気をすることもなく、健やかにいてくれた。
トイレもすぐに覚えたし、壁や家具で爪を研ぐようなこともしない、とても良い子だった。
ただ時々甘えたがってわがままを言った。
「もう、寿命だよ。あと一日、もつかどうか…」
そんなに急なのか、というのが本音だった。
彼女の食べる量が減っているのには、気づいていた。でも、夏の終わりから秋口にかけては毎年そうだったから、あまり気にしていなかった。
気にしてあげていたら…もっとはやくに気づいて、病院に連れて行っていたら…?
いや、結果は同じだっただろう。
病気では、ないのだ。
夜半すぎ、私の膝の上に丸くなったまま目を閉じていた彼女の呼吸が、少し速くなった。
小さな口を開いて、苦しそうに呼吸をし始めた。
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