第7話

a.m.6:30


俺の名前は相模陽介。今日は徹に頼み込んで最初は俺に主導権を握らさせてもらっている。理由は言うまでもない。昨夜、みんなでこの1週間で起きたことをある程度報告しあってもらった。みんなが真相は隠しているが嘘はついていないように見えた。そしてなにか繋がるものを感じた。その事件を解決するためだ。とりあえず雷山高校に行ってみようと思う。事の始まりから探るのが基本だ。

「徹」

「なに?」

「君の片思いの人からプレゼントを見せてもらってこい」

「なんでだよ!はずいじゃんか。それにこの前のデートのせいで気まずいんだよ!」

「いいから!」

今だけ徹にスイッチ。

「なぁ」

「おはよう。どうしたの?」

「この前渡したやつちょっと見せてくれない?」

「え?いいけど...どうして?」

「いや、少し確認したい事があって」

そうして同じ目を通してその物を見る。そして勝手に口を借りて「ありがとう。」と言って徹に問いただす。

「おい!あれをどこで買った?」

「え?M駅の電気屋だけど」

「行くぞ!」

無理矢理徹を連れて行く。別に学校なんて行かなくてもあの人が将来困らないようにしてくれるはずさ。あまりにも徹がうるさいので用済みなこいつには気絶してもらっておいた。


a.m.10:00

電気屋の開店と共に同じものを購入。そして皐月高校へダッシュ。10分足らずでついて例の男の元へ走った。

「君の彼女が無くしたと言っていたのはこれかい?」

そして買ってきたイヤホンを見せつけた。

「そうだよ!やっぱてめえがとったんじゃねえか!」

と言いながら胸ぐらを掴んでくる。早とちりもいいとこだ。

「違うね。よく見たまえ。彫ってあるイニシャルが違うだろう?これは俺のイニシャルだ」

「本当だ。でも何故お前がそれを知っている?」

いい質問だ。

「前のイヤホンはとある事情で彼女から一時的に借りたものだ。すぐ返すから。でも君からのプレゼントととは知らなかった。すまなかった」

頭を下げておくと相手は許さざるをえない。


晴天高校で野暮用を済ませて雷山校に向かっているところで徹が目を覚ました。

怒っている徹を放置して、俺はとある人を体育館裏に呼び出した。マスクをつけて...

「おい陽介、なんで優のマスクなんてつけるんだ?巫女は俺の顔を知ってるんだから隠す必要ないだろ?」うるさいのでみぞおちに一発。

やってきた彼女に俺はイヤホンを返す。驚くのは徹。

(な、なんで?俺のあげたイヤホンを?)

俺はなだめる

(黙って聞いてろ)

彼女は言う。

「ありがとうございます。これやっぱり大事なものなんです」

ふふ。予想通りだ。

「さっき例の友人から返しもらってきたんです。それからあの時はご迷惑おかけしました。あと少しだけ話をさせてください。あなたはきっと同じプレゼントをもらったんでしょう?」

「なぜそれを」

「いろいろあって知ることになってしまったのです。続き聞いていただけますか?そうしたらあなたの知らないことも教えて差し上げれる気がするので」

「ならお願いします」

「では続きを...ただ同じものを2つ持っていても特に価値もなく、片方は使わずにしまっておくか処分するかが普通の人の判断です。あなたはずっと2つ持ち歩き続けとっておいたのでしょう。ただあなたは気づかなかった。その2つのプレゼントの違いに」

「違い?」

「そうです。今回の騒動はその違いが大きな鍵を握るのです。実はこのイヤホンが売っている店ではあるサービスをしています。そのサービスとは、追加料金を支払えばそのイヤホンにイニシャルが彫ってもらえるのです。あなたの彼氏さんが渡した方には実はあなたのイニシャルが彫ってあったんです。ほらここにM Sと書いてあるでしょう?あなたはもう片方の方を使い続けイニシャル付きの方に気がつかなかった。そこで僕があなたの教室に忍び込んでた時に邪魔だった片方を私に渡した。ただあなたは気づかずイニシャル付きの方を僕に渡してしまった。しかし彼氏さんが気づいてしまいました。きっとあなたは焦ったでしょう。理由はわからないが彼氏は自分が渡したものとは違うと気づかれた。そこであなたは言い逃れるためにおそらく「そのイヤホンを誰かに盗られて、でも無くしたなんて言えなくて変わりに新しいものを買った」の類のことを言ったのでしょう。そこで彼氏は納得はしたがその盗んだ奴が許せなかった。先ほど確認してきましたがあなたの彼氏はその悩みを友人に相談していたようです。その打ち明けた友人はたまたま私達のやりとりを見ていたようです。あなたからもらったイヤホンを彼に渡していたところです。その彼氏に事を報告し早とちりをさせてしまった。というわけです」

「半分くらいよくわからないんですけど...イニシャルが彫ってあったなんて気づきませんでした」

しまった。ついうっかり徹に説明するために余分なことまで言ってしまった。すると徹がたまらずに叫んだ。

「な、なんで盗られたなんて?嘘をつくのはまだしもそんな言い方しなくても」

確かに徹の言いたいこともわかる。きっと自分の渡したプレゼントのことであがっているんだろう。まあでも嘘くらいついてもおかしく...

「え?だってそれはあなたが...」


p.m.4:00


怪盗の記憶


この前の火曜日の件をみんなに正直に話した。

友達に雷山高校にいる好きな人のなにかをもらってきてほしい。もう引っ越して会えなくなるから彼女の欠片がほしい。

引き受けたはいいものの、その人に迷惑がかかることはしたくない。なにも考えず、マスクをつけたまま事前情報を元に教室に忍び込んだ。その子のロッカーを漁っていた所を本人に見つかってしまった。問い詰められ、ありのままのことを話した。すると彼女は

「このイヤホンならどうぞ」

と渡してくれた。なにかあった時のためにメアドを交換した。ものを手にした所で移動教室先から帰ってきた人が話している声が聞こえてきた。俺は窓から飛び降りた。ベルトをズボンのベルト通しにひっかけ、命綱にしエアコンか何かのホースに縛り降りて行った。

その日の午後、例の友人に、そのイヤホンを渡した。その時俺は気づいていなかった。喫茶店で男が男にイヤホンを渡しているというシュールな光景を隣の席の人がガン見していたことに。



詐欺師の記憶/Wednesday

a.m.9:00

メールが届いた。

「彼氏と友達からもらったプレゼントがたまたま一緒で彼氏の方に「なんで俺のあげたやつじゃないもの使ってるんだ?」って言われて、その場は逃げたんだけど。なんで彼氏が気づいたのかも不思議なんだけど私が使ってたものはたまたま友達からもらったものみたい。なんて言い訳しよう?」

俺は嘘のストーリーを作り送り返した。




Friday

p.m,4:30

彼女は言った。

「問い詰められてどうしていいかわからずその場は逃げたのですが、なにかいい案はないかと考えて、水曜日にあなたにメールしたんじゃないですか。どうしたらいいか?って聞いたらあなたがそう言えば大丈夫って返してくれたのでそう答えたんです」


そう、たまたま豪がメールを返してしまったので、この事件が起きてしまった。恐らく彼女自身も優に盗まさせているから盗まれたという表現を無意識に使ってしまったのだろう。徹が聞いてくる。

「なんで今回のことわかったんだ?」

「今朝、制服を着た時、所々汚れていたしボタンが取れてたしベルトが見つからなかったことに徹は不思議がってただろ?あれであの制服を徹以外の誰かが着て激しい動きをしたからああなったと思うんだ。で、優が他校に忍び込んだって言ってた。どこかの学校に忍び込むなら制服くらいなきゃダメでしょ?もし仮に徹の学校に忍び込むなら徹の制服借りるのが手っ取り早い。優が着たなら汚れているのもロープ代わりにベルトを使ったりするかなって思ったの。それに筋肉痛が体に残っていたろう?きっと優がハードな動きをしたのが筋肉痛になったんだろうね。まあ3日もたっていればそれほどじゃないとは思うけど」

「なるほど。さすがだね」

と言って徹は俯いた。今回の事件で1番傷が深いのは徹だろう。まずそもそもそこまで考える余裕がなさそうだが巫女さんとの初デートで変な印象もつけてしまっている。それに加えて彼女のために買ったイヤホンは優の友人が引越し先に持って行ってしまったのだから。彼女もそのイヤホンを自ら手放したという事実も彼の心を傷をつけただろう。徹の意思であるとは言え、辛いのは確かだ。徹は人の幸せを常に考えているが自分のことは考えないようにしているようだ。それがいいところであり悪い所でもあるのだろう。徹はこの多意識症という呪いのような状態になってしまったばっかりに自由な恋すらできないのだ。俺は徹を思い、少し1人にしてやろうと思った。


p.m.4:40


帰りの電車に揺られながら考えた。陽介は自分の部屋にいって主導権は俺になった。

この事件の被害者は誰だろう?巫女か?俺か?いや、少なくとも加害者は俺だ。俺がいなければ他の人に迷惑をかけることもなかった。巫女の彼氏も彼女を思ってのことだし、豪もあいつらしいことをしただけ。俺は一体誰を攻めれば気が治るのだろう?攻めたところで良いことはあるのだろうか?きっと優達のやりとりも他人から見れば顔を見れば陽介と間違えるのは当たり前だ。何しろ同じ顔なのだから。見ただけで魂が違うなんてわかる人がこの世界にいるだろうか。目撃してしまった巫女の彼氏の連れにも悪意はない。やはり俺は誰も攻めることはできない。そして俺は巫女を想い続ける意味はあるのだろうか。考えることが多すぎる。そんなことを思っていると右肩になにか負担がかかった。なぜか今までにないドキドキを感じた。女子高生が疲れた顔をして眠っており、俺の肩に頭を乗せていた。なかなか可愛い顔をしている。なぜドキドキしたかわからないが、寄りかかられて悪い気はしない。だが別にそれだけで好きにはならない。I駅に着いたら彼女が目を覚ました。

「ごめんなさい」と申し訳なさそうな顔をしていた。

「大丈夫ですよ」

と言って笑顔を返しておいた。良い子だとは思うが...俺はやっぱり巫女が好きだ。気持ちが再確認できたのは今日の中での唯一の収穫だ。そんなことを考えながらその日を終えた。



p.m.4:40


「ほら、起きて!」

頭に響く声。目を覚ますと最寄りのI駅についていた。気がついたらとなりの男子高校生に寄りかかってしまっていたようだ。謝ったら笑顔で大丈夫と言ってくれた。急いで電車を降りる。おじさんじゃなくてよかった。なんて思っていると頭にまた声が響く

「今の人、なんか寄りかかっちゃった時すごくドキドキしたんだけど、なんか恋とは違う気がするんだけど、お知り合いとかじゃないわよね?」

「え?知らない人だよ」

と返しておいた。私は決して1人で話している痛い人じゃないよ。ただどうやら病気らしいの。多意識症っていう症状らしくて私の学校の先生が紹介してくれたいかがわしそうな医師が診断してくれた。よくわからないけど私に何人かの魂が住み着いてるらしい。でも私はそのことを深く考えずに生活している。なにも不自由ない生活。平凡な毎日。こんな日が続けばいいなって思う。それにしてもさっきのお兄さんと喋った時にドキドキしていたことは私も気づいていた。恋をしたことない私にはこの気持ちが恋かどうか判断することはできなかった。心臓の鼓動を聞きながら私は家に帰った。


第1章 Memoryのカルテット 


to be continued

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