第8話 対策本部②

全ての艦に通達が行き届いた後、部長、と呼ばれていた男はまた電話を取り、


「すぐに小型艦を用意してくれ 実験を行う ああ、廃艦でいい 自動操縦システムと位置情報把握端末のみ搭載して出発させてくれ」


と伝え、電話を切り、また別の人へ電話をかけた。


「ああ、警備隊はパトロールを強化してくれ 被害を防ぐためだ」


電話を置くと、すぐに着信を知らせる音が鳴り出した。


「はい、なんでしょうか」


画面に表示された『本部長』という文字を見て、僅かに緊張を帯びた声で応答する。


『さっきの指令・・・正気かね?』


本部長からのしっかりした声に緊張の度合いが増していく。


「はい、正気です」


短く、強く答える。


『・・・もちろん、裏付けはとれているんだろうね?』


「・・・いえ、これからです」


『なんだと?』


この日一番、いや、彼が知っている中で一番の鋭い、厳しい声だった。


「しかし、他に方法はありません もし有力な答えを本部長がお持ちならぜひとも御教授頂きたいと思います」


これまでにも増して丁寧に、強気で答えた。


『・・・やれやれ、後で君がその判断を後悔しないことを祈るよ』


そうとだけ言われ電話は切られた。


目の前の大きな画面にはたくさんの情報が並んでいる。SNSの反応、寄せられている苦情の内容、まだまだ届く行方不明に関する情報・・・。それらを眺め、心が重くなってくる。


「おい!準備はどうだ!」


その心の重さを忘れようと、つい立ちあがり、大きな声をあげる。しまった、とは思うがその罪悪感は普段よりも薄い。


「は、はい!間もなく出発の準備が整います!」


ある一人が返答をする、その声は震えていた。


「そうか・・・なるべく早く出発出来るように頼む」


ゆっくりと座り込み、頭を掻く。


無機質なデスクを撫でる。愛着、というものより、少し懐かしむように指の腹で撫でていく。


手を止め、俯く。




一体、何時ほどそうしていただろうか。急に、声が聞こえてきた。


「ょう・・・部長!部長!」


「ん、ああ!なんだ?」


「実験艦の用意が終わりました!待機中です」


「分かった!映像を投影しだい、発進させてくれ!」


座り直し、前方に投影された画面を見る。部屋が静まっていく。


「ワープまで、3秒前!2!1!」


その瞬間、艦の姿は消えた。画面が切り替わり、ワープ先を映し出す。


「どうだ・・・?」


まだ、姿は見えない。


「位置情報調査急げ!」


「了解しました!」


室内が少しずつ騒がしくなる。


「位置情報、確認できません!」


「なに!?」


室内が輪をかけて騒がしくなる。


「これは、あの仮説が合っていたということか!?」


「嘘だろ!?」


その騒がしさを聞きつつ、部長は喜ぶべきか、悲しむべきか、どうするべきか分からずにいた。

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