第50話  ようこそ、我がアトリエへ

「これが、タイムマシンか初めて見たよ」

里美の後には、タイムマシンがある。


随分と小さい。


「1人用だからね・・・」

里美は、笑って答える。


両親は、席を外してもらった。


「基くん、ありがとう。よく頑張ったね」

「里美の、おかげだよ」

「私もね」

これが最後かと思うと、何だか感慨深いものがある。


「最後じゃないよ。未来で会えるから」

「そうだね」

言葉が出てこない。


「さあ、最後のテストよ」

「最後の?」

「うん、基くんなら、わかるはず」


僕は里美を抱き寄せ、その額にキスをした。

本来なら、唇を重ねるべきだろうが、そこまでの勇気はなかった。


「うん、合格。よく出来ました」

「合格?」

「男性から女性への額へのキスはね、無償の愛という意味があるの。

基くんの気持ち、しっかりと受け止めた」


すると、里美は僕から離れ、タイムマシンに乗り込んだ。


「基くん、シーユー。時々メールするね」

そう言って去って行った。


終わってみるとあっけなかったが、その答えはこれからにかかっている。


里美が帰って程なくして、新学期に入ったのだが、

僕は自ら、留年を望んだ。


新しいクラスメイトとも、すぐに馴染めた。


そして、1年後に入学時の仲間より、1年遅れで卒業した。


それから家を出て、1人暮らしを始めた。

大学進学は敢えてせず、デザイン会社に勤めた。


当たり前だが、甘くはなく、イラストで生活できるなんて、生易しくない。

でも、僕には大きな支えがあった。


未来に帰った里美から、時々メールが送られてくる。

時空を超えてメールが出来るなんて、まさに科学の進歩は恐れ入る。


【基くん、子供が生まれたよ。女の子、瀬梨と名付けたよ】

女の子か・・・苦労するかな・・・


【基くん、お義父さんと、お義母さんも、元気だよ】

父さん禿げたな。母さん、少し太ったか・・・


【基くん、この人が未来の君だよ】

僕はこうなるのか・・・


こうして、10数年が流れた。


僕は、どうにかイラストで飯が食えるようになった。

ここまで来るのに、10年以上もかかった。


まっ、仕方ないか・・・


今は、少数だがスタッフもいる。


そして、その日はやってきた。

その子は突然尋ねてきた。


僕の知っているあの子より、やや幼い。

でも、間違いなくあの子だった。


「初めまして、私、・・・里美です・・・よろしく・・・お願いします・・・」


僕は、思わず叫んだ。


「ようこそ、我がアトリエへ!」


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