第43話 少しずつ

神社を出た。

鳩に餌を巻いている人を見かけた。


今は、鳩に餌をやるのを、禁じているところが多いが、

ここはOKのようだ。


「里美、幼稚園によるの?」

「ううん、このまま帰るよ」

「でも、荷物が・・・」

「先生が、届けてくれるって」

ご親切にどうも・・・


家に着くと、玄関に荷物が置かれていた。

誰も、盗む人はいないので、安心だが、いささか不用心な気もする。


「じゃあ、朝食作るから、待ってて」

「あっ、手伝うよ」

断れると思ったが・・・


「じゃあ、食器出して並べておいて」

「わかった」

「後、茶の間の掃除もお願い」

「了解」

あまり汚れていないので、すぐに片付いた。


テーブルを出して、食器を並べる。


「お待たせ」

「早いね・・・カレー?」

「うん、昨日の出かける前に、仕込んでおいたんだ」

いつの間に・・・


「あっ、甘口だから安心して、私もね」

「甘いの平気なの?」

「うん、私は両方いけるから・・・」

「そうなんだ」

「でね・・・」


いつも通りの他愛のない会話、とても美味しいご馳走だ。

でも、会話の内容が少し変わってきた、

里美が主導なのは、変わらない。


でも、最近は僕の事を訊くことが多い。

おおよその事はわかっていると思う。


未来の僕が、今と変わっていないからだ。

いや、少しは過去形になるか・・・


なので、殆ど「同じだね」「変わってないね」だが、たまに「あっ、そこ未来の君と違う」と言われる。

まあ、それはそれで、いいことかもしれないが・・・


ただ、驚かれた事がある。

それは、趣味を訊かれて時、以前は完全インドア派だったので、趣味はそればかりだったが、

最近は、外の楽しさがわかったのか、「散歩」と付け加えた。


「あっ、そこは未来の君とは違うね」

でも、それは落胆ではなく、安堵の驚き・・・


里美の中では、僕は変化しつつあるようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る