第39話 相乗効果へのスタートライン

「相乗効果って知ってるか?」

「よく聞くけど、くわしくは・・・」

「二つ以上の物が合わさって、より大きな効果を得るということだ」

「えっ」

「つまり、今回のは、お前を変えると同時に、里美さんを変えるためでもあるんだ」

「どういう・・・」

父さんの言ってる事が、わからなかった・・・


「お義父さん、後は私が・・・」

「あっ、お願いします」

父さんと入れ替わりに、里美が席に着く。


「基さん、驚かせて申し訳ありません」

「基・・・さん?」

「ええ、ここは礼儀を通します」

「礼儀?」

里美は、頷いた。


「私が、この時代には海外にいる事は、お話しましたね」

「うん」

「実は、私が帰国するのは、この数年後なんです」

「数年後?」

里美はうなずいた。


「私が帰国したのは、実は両親の他界によるものです」

「お亡くなりに?」

「はい」

初めてだな・・・ここまで真剣な里美は・・・


「帰国した私は、親戚中をたらいまわしにされました」

よくある話だが・・・

「そうなると、人間どうなるか、わかりますね?」

「ぐれる・・・ですね・・・」

里美は、黙ってうなずいた。


「私は、すりでもなんでもやりました。ただ、いじめだけはしませんでした」

「うん、そんな子には見えない」

「ありがとうございます。でも・・・」

「でも?」

「そんな私を、いつまでも親戚が放置しておくはずもなく、追いだされました」


「行くあてを失った私は、とあるイラストの天覧会に行きました」

「イラストの?」

「そこに描かれているイラストは、上手とは言えないけど、とても、ピュアで素直でした」

「ピュアで素直?」

「はい、そして会ってみたくなりました。」

「どうして?」

「基さんにもありませんか?そういうことは・・・」

無いと言えばウソになる。


「そして、アシスタント募集の広告を見て、その方のアトリエに行きました」

「ええ」

「その作者の方は、お世辞にもイケメンとはいえなかったですが、行くあてのなかった私は、

住み込みで、働かせてくれるように頼みました」

「うん」

「その方は、二つ返事で受け入れてくれて、面倒を見てくれました」

「面倒を?」

「最初は食うためだったんですが、その方は描く絵と同じように、とても素直で純粋でした」

絵は描く人に似るというが・・・


「その方は、私よりも、15歳以上も年上です。本来なら、恋愛の対象外です」

「失礼ですけど、そうなるね」

里美は、苦笑する。


「でも、イラストを描いている時の、その方はとても生き生きしていました。

私もこうなりたい。そして、いつしか恋愛感情が芽生え、私からプロポーズしました」

「逆プロポーズですね」

「ええ。その方のご両親にも、会わせていただき、快く受け入れて下さりました」

「今時、珍しいね」

「ええ、でも・・・」

「でも?」

里美は、さらに続けた。


「その方は、自分に素直すぎるのか、自分の殻に閉じこもる傾向にありました」

「クリエィターとは、そんなものかもね」


「基さん、まだわかりませんか?」

「何が?」


「そのイラストレーターは、あなたなんです」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る