第35話 晴耕雨読

晴耕雨読とは、悪く言えば世捨て人。

わずらわしい俗世間から離れて、田舎にこもって暮らす事。

晴れた日は外に出て土と戯れ、雨の日は家の中で、読書をする。


ありのままの生活。


僕はかねてから、そのような生活をしていと願っていた。

今、それが現実の物になっているのだが・・・


確かに、とても充実はしている。

ただ、「これでいいのか?」と、迷いだしたのも事実・・・


この河下村も、当然日本国内なので、晴れの日もあれば雨の日もある。


今回は、少し前に戻って、雨の日の話・・・


その雨の日、僕は外を眺めていた。

「よく降るな・・・」

「この辺りは、特に雨は大切だからね」

雨は、数日降り続いていた。


(お年寄りの方は、大丈夫かな・・・)


「基くん、今日は雨だからお勉強ね」

「わかった」

「素直だね。」

「まあね・・・」

里美の笑顔には、逆らえない・・・


「で、里美先生、何をすればいいのですか?」

「読書です」

「読書?」

「うん、読書」

「本、持ってきてない」

「大丈夫、用意している」

どうやって、持ってきたんだ?


「この本は?」

「風の又三郎」

「宮沢賢治の?」

「うん」

「今更ですか?」

「うん」


宮沢賢治、好きな作家だが、あまり読んだ事はない気がする。

雨ニモマケズが、あまりにも有名なせいか・・・


「もしかして、銀河鉄道の夜がよかった?」

「いえ、これでいいです」

「終わったら、感想文ね」

「小学生ですか・・・僕は・・・」

まがまがしい妖気が漂っている。

無言の威圧・・・


「書かせていただきます」

「よろしい」

いつもの里美に、戻る。


しばらくして・・・


「書きましたよ、先生」

「拝見します」

里美は、少し見て・・・


「書きなおし」

「なんでですか?」

「あらすじはいりません。感想を書きなさい」

読書感想文で、よくあるミスだ。


仕方なく、書きなおした・・・


このような感じで、雨の日はお勉強をしている。


でも、今は充実している。

都会で暮らしていた頃よりも、変わったとは思う。


でも、今戻れば、「元の木阿弥」になる。

里美・・・

君は本当に・・・何者?


里美は先生は付けなくていいと言っていたが、付けてみた。

でも、何も言われなかった。


「あっ、忘れてた」

「何が?」

「先生は、付けなくていい」

「今、思い出したの?」

「うん」


里美さん・・・


「君もでしょ?基くん」

「いえ・・そんなことは・・・」

「怒らないから、正直にいいなさい」

「・・・はい・・・」

「よろしい」


めっと、軽くおでこを指で押さえられた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る