第25話 変わらない優しさ

夕食の間も、他愛のない会話で笑顔がこぼれる。

この間が、一番の至福の時かもしれない。


食べ終わった食器類は、厨房までは僕が運んでいる。

里美は、「私がするから」と言ってくれているが、せめてこのくらいはさせてほしい。


食事が終われば、今を掃除する。

といっても、静かにほうきをかける程度だが・・・

テレビは置いてあるが、殆ど見た記憶がない。


忙しいのもあるが、里美との会話をしながらの食事のほうが楽しい・・・

「少しは、変わったのか・・・」

自分ではわからないが、里美はどうみているだろう。


「痛い」

突然、厨房から悲鳴がした。

僕は思わず、駆け付けた。


「どうした?」

「指切っちゃって」

里美の指を見ると、血が出ていた。

かなり赤く流れていて、とても痛そうだ。


僕は、何を思ったか、考えもせず、里美の指をなめた。

そして、水で洗い流し、絆創膏を貼った。


そこで、初めて我に帰った。

「ごめん・・・思わず」

「何を、詫びてるの・・・」

里美は、半分怒りながら、半分泣きながら、答えた。


「この頃から、かわってなかったんだね。君の優しさ・・・」

「えっ」

「未来の君も、こうしてくれた・・・とても、嬉しかった・・・」

「僕は、何も・・・」

里美は、首を横に振る。


「ううん、なかなか出来ないよ、こういう事の出来る人」

里美は僕の胸に飛び込み泣きだした。


僕は、頭を撫でることしか出来なかった。

らしくないとは、自分でも思う・・・


「基くん、あなたは優しい、優しすぎる・・・」

そうすると、唇を重ねてきた・・・


「だから・・・ありがとう・・・私、絶対にあなたを・・・」

その後は、言わなくてもわかった。


僕は、何も出来なかった。


でも、翌朝からは、いつもの里美に戻っていた。

「基くん、今日も君と二人三脚だよ」


(基くん、君の優しさは、宝物。絶対になくさないで・・・)

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