第10話 忘れていた物
里美と並んで歩く。
思春期の男子ならば、同じ年頃の女の子と一緒に歩くのは、誰もが夢見る。
僕も、「一度も夢見た事がない」と言えばウソになる。
今、その夢が現実となっているのだが、嬉しさより不安が大きい。
「基くん、着いたよ」
そこには、祖父母が住んでいた家が、そのままあった。
わらぶき農家の平屋。
江戸時代から、そのまま残っているらしい。
しかし中は、それなりに広い。
有名な、某海産物一家の家を、少し広げた感じだ。
「さあ、基くん。最初にやることはわかるよね」
「ご近所への挨拶」
「違う。家の掃除。かなり埃が溜まっているでしょ!」
「しておいてくれなかったの?」
「怒るよ、基くん」
「・・・はい、掃除します・・・」
「素直で、よろしい」
頭をなでられる。
何年かぶりに、足を踏み入れた懐かしい家。
埃は溜まってはいるが、家具とかはそのまま。
「では、早速お掃除開始よ」
「掃除道具がない」
「それは、用意してあるよ」
ほうきとバケツと雑巾があった。
ちなみに、電気も水道も、止められていなかった。
ド田舎でも、電気と水道だけはあるようだ。
ちなみにガスは危険なので使うなと、父さんから釘を刺されている。
「はい、スタート」
「あのう、少し休ませて・・・」
「だーめ、はい奇麗にしなさい」
里美に言われるままに、掃除を開始する。
「手伝っては・・・くれない・・・よ・・ね・・・」
「うん」
即答された。
それはいいが、満面の笑みで言わないでほしい。
「そのかわり、夕ご飯は楽しみにしておいて」
「ホントに?」
「うん。君のために、ごちそう作るから」
女の子の手料理を食べたい。
それも、夢見るところだ・・・
掃除は意外と、早く終わった。
「御苦労さま、少し休んでて、すぐに用意するから」
完全に体力を使いきった。
もう、晩飯はいいや・・・寝よう・・・
その時、台所からいい匂いが漂ってきた。
「基くん、出来たよ。さあテーブル出して」
里美に言われるままに、テーブルを用意する。
里美は、テーブルに料理を並べて言った。
僕の好物ばかりだ。
「さあ、さめないうちに」
僕は、みそ汁をすすった。
とても、美味しい。
「さあ、他のも、どうぞ」
テーブルに並べられえた食事を口にした。
どれも、とても美味しい。
ちなみに、ご飯とみそ汁の他は、とんかつ。キャベツ、大根の佃煮、トマトサラダ。
でも、なぜだろう・・・
母さんの味に似ている・・・
「今、君が思ったことは間違いないよ」
「えっ」
「私は、君のお母さん、つまり、私のお義母さんに、料理を教わったんだもん」
納得しておこう。
里美も一緒になって食べる。
他愛のない会話をしながら食べた。
人と会話をしながらの食事は美味しい。
僕は、その事を今日まで、忘れていた。
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